11月14日
2021年6月に丸善出版から「化学プラントの老朽化 - リスクに基づく設備の保守とその評価」を出版して3年以上が経ちました。当時はCOVID-19の問題が大きくなり、多くの皆様に紹介する機会を失っていましたが、この度工業通信社の月刊誌「化学装置」の12月号にこの本の紹介記事を掲載して頂くことになりました。この本はCCPSが2018年に"Dealing with Aging Process Facilities and Infrastructure"として発行した本を安全研究会で翻訳して出版したものです。これは、ろくにメンテナンスをせずに老朽化したプラントを魔法の様に蘇らせるものではありません。きちんと管理して古くなったプラントも安全に操業していくためのコンセプトブックです。化学装置に詳しく記しましたので、是非ご覧いただきたいと思います。
10月13日
今回は、AIChEのCCPSがIChemESC, MKOPSC, FABIG, EPSCと共催で実施予定の「第1回プロセス安全週間(IPSW: International Process Safety Week)」について少し紹介したいと思います。これは、2024年12月2日から6日に実施予定です。大きく分けて、3つの要素から構成されています。1つ目がWebinarsと呼ばれる「講習会」、2つ目が「パネルディスカッション」、3つ目がCase Studyと呼ばれる「事例研究」です。おそらく、全て英語で行われるでしょうが、プロセス安全にかかわる方には、きっと役立つ情報にあふれていると思います。参加は無料ですが、登録が必要です。
現時点では、未だ詳細は掲載されていませんが、登録は可能です。
9月15日
今朝、TBSの「がっちりマンデー」という番組で匂いに関するビジネスの紹介がありました。その中にソニーの「におい提示装置」という機械があり、人に色々な匂いを嗅がせることが可能と言うことでした。化学プラントでは様々な化学品を取り扱っており、その中には人体に有害な物質も含まれます。プラントで働く人たちはその匂いを知っていて、それを感じたら漏洩を疑う必要があります。しかし、人の嗅覚受容体は396種類もあり、全てが機能してはいないとのことです。人により同じ匂いを嗅いでも同じには感じていないのです。もし、プラントで働く人がその化学物質に対して嗅盲(特定の匂いを感じない人)であったとすると、万一の場合に危険にさらされることになります。この「におい提示装置」で危険な物質の匂いを疑似的に作って、従業員がそれを感じるかどうか検査できれば、嗅盲の人をその物質の取り扱いエリアから離すことが可能となります。この装置がそのような目的で使えるようになることを期待しています。
8月14日
8月8日に宮崎県で震度6弱の揺れを観測したマグニチュード7.1の地震で、気象庁が「南海トラフ地震臨時情報」を発しました。以前から南海トラフ地震が発生する確率は30年以内に70~80パーセントと言われており、歴史的に見ても頷ける情報だと思います。この情報に対して我が国の化学プラントはどの様に対処しているのか、気になるところです。東日本大震災では、巨大な津波の発生による福島第一原子力発電所での事故が注目を集めましたが、石油精製プラントでも数件の火災が発生しました。今回の「南海トラフ地震臨時情報」を受けて、各化学会社は適切な処置をされたことと信じています。
7月12日
海上自衛隊で大勢の処分が下されたとのニュースに接しました。特定秘密情報、潜水手当、不正飲食、パワハラの4種の指摘がありました。何れも組織の管理問題だと思います。秘密情報の管理は民間企業でもかなり真剣に行っていることだと思います。国の防衛を担う自衛隊の秘密情報管理がずさんでは我が国の防衛体制に不安を感じる人も少なくないでしょう。潜水手当と不正飲食は「バレなければ大丈夫」と言った感覚で少しでも得したいという気持ちから誰かが行い始め、周りに広がっていったのではないでしょうか。ルールを守らないことはプロセス安全でも発生し得ることです。CCPSが提唱している「リスクに基づくプロセス安全」の中で、「誰も見ていないときでも、必ずルールを守っていますか?」という問いかけがあります。どんなに優れたルールであっても、誰かがルール違反を繰り返せば、周りの人もルールを守らなくなり、その意味を失います。これは人類の永遠の課題なのかもしれません。
6月8日
大手自動車会社の多くで不正が発覚して問題になっています。型式認定を受ける際の書類作成で不正を行っていたが、安全性能には問題ないと公表したと報道されています。行政側には国民の生命と財産を守ることが求められるので、ルールは厳しく設定する傾向があるでしょう。一方で、企業は限られたリソース(人・物・金)で目的を達成しようとします。もし、本当に安全上で問題がないのであれば、そこまで厳しくする必要がないとも言えます。一方で、ルール違反であることを知りながら違反する側にも問題があります。プロセス安全のルール作成で大切なこととされているのは、そのルールが実行可能でかつ目的を満足できる内容であることです。もし、守ることのできないルールを策定したら、作業をする人たちはそのルールを守れないだけでなく、その他のルールも守らなくてよいものと思い始めてしまいます。守れるルールを作って、それをしっかりと遵守することが大切です。時にはルールの見直しも必要です。
5月12日
日本の人口減少について長く懸念されていますが、対策が目先のことに限られていることが気になっています。人口が減少すれば消費も減少します。金額ベースでは品質向上などでより高価なものを消費して貰えば維持できるのかもしれませんが、物量としては減少します。従って工業製品も人口増加の続いている海外に販売ルートを求めなければならなくなります。この時、老朽化したプラントの製品が売れ続けられるとは思えません。消費地の近くで新しいプラントが建設されて効率よくかつ高い品質で生産された品物と競争することになります。そこで心配なことは日本の老朽化したプラントの行く末です。最終的には生産を終了して撤去されなければならないのですが、その前に企業が倒産してしまうと危険な物質を保有したままの老朽化プラントが放置される恐れがあります。企業はそうなる前に老朽化したプラントを撤去しなければなりません。そこまでがプラント経営の責任だと考えます。
4月15日
今年は1月1日に能登半島で大きな地震が発生して大きな犠牲が払われました。また、今月3日には、台湾でも大きな地震が発生しています。これらの状況から地殻変動が激しくなりつつあるのではないかと懸念を強めている所です。東日本大震災の傷も癒えない内に次々と大きな地震が発生しています。わが国では南海トラフの地震や東京地下直下型大地震などの可能性も報道されています。危険な化学物質を扱っている化学プラントや石油精製施設では色々な対策を講じていることと思いますが、日本の場合は地域住民とのコミュニケーションが不足しています。狭い国土では巨大地震発生時に、周辺住民に何らかの影響が及ぶことは避けられないでしょう。一方、周辺住民の方達もそのことを承知の上でそこに住んでいるという認識を持つべきではないでしょうか。国民の財産と生命を守ることは国の大切な役割です。国はそのために適切な法改正を行うべきだと考えています。
3月12日
AIChE の機関誌CEP(Chemical Engineering Progress) の2月号に "Supporing LOPA with Fault Tree Analysis" という記事が掲載されています。この記事によると「LOPA(Layers of Protection Analysis) は、HAZOPなどを用いてプロセスハザード分析をしている際にシナリオの結果が重大になる場合によく活用されるツールであるが、既存の対策が独立防護層ではないと見なされると過大な防護を要求する傾向がある」と指摘しています。そして、その様な場合には FTA(Fault Tree Analysis) を活用すべきであると記しています。元々、FTAがミニットマン・ミサイルの信頼性確保のために開発された手法であることを考えれば、設計時にFTAを採用することは理に適っていると言えます。LOPAはひとつの起因事象からひとつの事故を想定するシナリオに対策を講じて事故の発生確率を低減させるという構造ですので、複数の事象が絡んだ事故を扱う場合は、この記事が指摘しているようにFTAを利用するのが適切だと思います。
2月14日
1月30日に丸善出版から「プロセス産業のためのサイバーセキュリティ リスクに基づくアプローチ」が出版されました。この本はAIChE CCPS が2022年にWileyから出版した "Managing Cybersecurity in the Process Industry, A Risk*based Approach" の和訳で、化学工学会安全部会の監修、濱口孝司氏の訳によるものです。Dennis Hendershot に捧げるとされています。CCPSでは、RBPS(リスクに基づくプロセス安全)とCSMS(Cybersecurity Management System)を別の管理システムとして併記する形の説明をしています。日本では、プロセス安全の定義がハッキリしていない為、サイバーセキュリティをプロセス安全の一部と考えている方が多い様です。何れにして、サイバーリスクについて注意を払わなければならない時代になったと言うことができるでしょう。プロセス安全に関わる人達もサイバーリスクに向き合うことが必要です。その意味で、良い入門書となると思います。
1月15日
明けましておめでとうございます。今年は元日に能登半島周辺で大きな地震が発生し、翌日には震災の被災地を支援しようとしていた海上保安庁の飛行機と日本航空の旅客機が羽田空港の滑走路で衝突して海上保安庁の隊員5名が犠牲になるという事故が発生しました。空港の管理システムは海上保安庁の飛行機が誤って滑走路に入っていたことを検知して管制官の画面に表示していたが管制官は気付かなかったとの報道がされています。日航機からは暗くなってからの着陸のため、滑走路に侵入した海保機を視認できなかったことと重なって事故の回避ができませんでした。この様なシステムを設計する場合もプロセスハザード分析をしていれば、管制官やパイロットに衝突の危険を直接知らせる設計に出来ていたのではないかと思います。尚、日航機側は客室乗務員が機転を利かせて乗客を避難させ、犠牲者を出さずに済んだことはお見事でした。日頃の訓練の賜物と称賛したいと思います。
12月10日
今年の6月14日に糸魚川のデンカ株式会社の青海工場クロロプレンモノマー製造設備で発生した事故の中間報告書が11月22日付で公表されました。配管内に溜まったスケールが爆発性の物質に変化していたことに気付かなかったため、配管を電動のこぎりで切断中に配管が破裂して1名が死亡、2名が負傷したものです。調査の結果、スケールはスケールの主成分は、「2-クロロ-1-ニトロ-4-ニトロソ-2-ブテン、ダイマー」と判明し、乾燥すると爆発する危険性の高くなる物質でした。同様な爆発はデュポンの工場でも発生しており、Chemical & Engineering News(A Aug 1995) Vol. 73, No. 32,で報告されていましたが、誰も怪我をしなかったので注目を浴びていなかったようです。他社のヒヤリハットも参考にすべきことがある事例です。そのC&ENの記事によれば、NOxとオレフィンの反応により爆発性物質が形成される可能性があるとのことです。配管や機器に付着したスケールには注意が必要です。
11月11日
先日、YouTube で "ARGON GAS CYLINDER BLAST" と検索したら、4人の男性が数多くのガスボンベが立てられた場所でトラックへボンベを積み込む作業をしていました。その内の1本のボンベが転倒してネックの部分が外れたらしく、ガスを噴射しながらボンベが飛んでいきました。ガスを噴射してロケットやミサイルが飛ぶ映像はこれまでも見ていましたが、実際にガスボンベが飛ぶ映像を見たのは初めてでした。国内でもボンベが飛ぶ事故は発生しています。2013年2月、大阪府自動車運輸業の事業所で放置されていたボンベを廃棄しようとしてバルブを外したらボンベが飛んで8mほど先にいた従業員を直撃して死亡事故になったとのことです。圧縮されたガスや、液化したガスの危険性についてもう一度考えてみませんか。私たちの身の回りにもプロパンガスのボンベなどがあるかも知れません。地震などで倒れて飛ぶ可能性は無いでしょうか。
10月14日
先月、19日に東京駅八重洲口に近い建設現場でクレーン事故が発生しました。吊り上げられていた鉄骨の上で作業をしていた男性作業員5人が7階部分から3階部分に転落し、このうち2人が死亡したとのことです。事故は吊上げた鉄骨を既に設置されていた鉄骨に固定した後、吊り上げワイヤを外した際に落下したものです。安全帯は落下した鉄骨に付けていた様です。ニュースでは詳しい情報が得られませんが、ワイヤを外す際の手順がどうなっていたのかが気になります。推測ですが、釣った状態の鉄骨を片側だけ固定してワイヤを外してしまったのではないでしょうか。7階から3階に落下して3人が死亡しなかったのは、片側が固定されていたためゆっくりと落下したのかもしれません。鉄骨を固定したことを確認する手順が無かったか、手順を守らなかったのかもしれのません。JSA(作業安全分析)では、誰がその様なクリティカルな条件の確認をするかを明記することが大切です。この事故は重大な人身事故ですが、危険な物質の入ったタンクに何かを落下させたら、重大なプロセス事故になります。プロセス安全でも、クレーン作業はリギングプランと呼ばれる作業計画書を作成して安全を確保することが求められています。
9月17日
新型コロナウィルスCOVID-19が5類感染症に移行されて以来、町ではマスクを外す人が増え、アルコール消毒液の設置個所も減少しています。しかし、オミクロン株から派生したEG.5、通称「エリス」は増加傾向をたどり、先日の尾身茂氏の会見でも「第9波はピークに達していない」と指摘して、警戒するように訴えられていました。先を読んで、正しく恐れることが大切であることは、プロセス安全にも通じるところです。国が警戒レベルを下げた今、私たちは自ら警戒して対策を考えるべき時かもしれません。私の周辺でも、久しぶりに宴会を開くことが予定されていますが、慎重に判断しなければならないと考えています。
8月14日
ハワイで、8日の朝にマウイ島など複数の島で発生した山火事が、ハワイの南を通過していたハリケーンに伴う強風の影響で急速に燃え広がって現在も多くの行方不明者が出ています。既に100人ほどの死者が報告されており、行方不明者の中には死亡された方も少なくないと考えられています。何故、これ程の災害になったのかを考えると、地球の温暖化(沸騰)が気温の上昇とハリケーンの激化をもたらしたことが一因と言えますが、これを直ぐに解消する術はありません。当面は、自然災害に対して「もし、~が起こったら」どの様な結果をもたらすかを把握して対策を講じ、身を守るしかないと思われます。本質的には、我々が人類の繁栄を優先して地球上の人口が増えすぎたことが地球温暖化の原因なのですが、その様な議論にはなっていません。その意味では、日本の人口が減少に転じたことは、良いことかもしれません。
7月13日
先月の14日に糸魚川にある化学工場で配管切断作業中に配管が爆発して作業員が死亡したという事故がありました。他に2名が負傷したとのことですが、詳しい報告書は今後発表されることと思います。この工場では、以前から火災事故の発生など、安全管理面が問題視されていたようです。この配管切断作業がどの様に行われたかは不明ですが、金属配管の切断は、溶断かジグソーによる方法が一般的です。何れも、切断箇所が高温になることが知られています。もし、配管内の残留物質が可燃性のものであったなら、着火することは事前に把握できた筈だと思います。残留物が空気中に散乱していれば、爆発の危険もあります。作業安全分析(JSA: Job safety analysis)をしっかりと実施して、事前に危険性の把握と対策を行うことが工事安全の基本です。安全意識の低さを指摘する記事も見受けられますが、これを意識の問題として片づけてはなりません。管理体制の問題として対処する必要があります。
6月14日
このところ、CCPSが発行しているProcess Safety Beacon の話題が携帯電話やリチウムイオン電池の着火源としての危険性に関する話題が多くなっています。リチウムイオン電池は電解液が可燃性物質であることと、かなり大きなエネルギーを蓄えることが可能なことから、リスクが高い物でもあります。実際に強い衝撃を受けたり、強い力で潰されたり、過充電に曝されると液が漏れて激しく燃えることが知られています。ゴミ収集車での火災も何件も報告されています。便利なスマホも、一つ間違えれば大きな事故を引き起こすかもしれません。
電解液を用いないことで、この様な危険性が低い全固体電池(Solid State Battrey)が実用化されて、リチウムイオン電池にとって代わる日が早く来ることを願っています。
以下はガソリンのタンクローリー上で携帯電話を使用した為に着火した事例のビデオのURLです。
https://www.firerescue1.com/explosion/videos/cell-phone-causes-massive-fire-6IOkgiiC1unCFkVg/
5月13日
労働安全衛生法の化学物質規制が少しずつ厳しくなってきています。化学物質は化学プラントに限らず、色々な工場などで使用されています。そこで働く人たちの健康を守る上で、大切なことです。既に昨年の5月31日り、SDS情報の通知の柔軟化が施行されていますが、この4月からは「労働者が化学物質にばく露される程度を最小限度にするために講ずる措置」に関しての自律的な管理の実施状況の調査審議を行うことが義務付けられることや、「リスクアセスメント結果等に関する記録の作成と保存」などが施行され、事業者の義務が増えています。この傾向は来年の4月に施行される改正法案でより明確になり、少しずつ欧米のレベルに近づいていると考えられます。化学物質を扱う企業の事業者の方は、早めに準備された方が良いと思います。
4月19日
先月、この欄でChatGPTを試してみたと書きました。その後、ChatGPTのCEO Sam Altman氏が来日して岸田総理と面会したことや、イタリアでその使用が禁止されたことなどが話題となっています。使い方によっては良くないこともあるでしょう。しかし、過去の全ての発明は光の部分と影の部分を持っていました。量子コンピュータも実現している現在、今後AIが私たちの生活に与える影響は計り知れないものがあるでしょう。大切なことは、AIの持っているリスクを正しく把握して、それを正しく制御することだと思います。これは、正にプロセス安全の基本として培われてきた思想です。影の部分があるからと禁止するのではなく、どの様に活用するかが大切だと考えます。
3月12日
先日、知人からChatGPTが面白いと聞いて無料版をインストールしてみました。初めに、「このAIの答えは必ずしも正しくありません」との注意書きがありました。「クレーン作業で注意すべきことは何か」と尋ねたら、それなりに正しい返答をしてきました。箇条書きにして、分かり易く整理されていました。一方、「CCPSのBeaconのどの号に反応器の爆発事例が紹介されているか」を尋ねたら、「自分はCCPS会員では無いので、分からない」と返答して来ました。「Beaconは誰でもアクセス可能だ」と指摘したら、「申し訳ありません」と前置きしてから、それなりの返答をしてきました。面倒くさがりの人間が答えている様で、面白いと思いました。AIが進歩すれば、プロセス安全の情報も比較的容易に入手できる様になるだろうと思います。ChatGPTは膨大な情報から必要な情報を抽出して答えてくれますが、その情報が正しいかどうかは人が判断する必要があります。プロセス安全の知識は、まだ人間が判断する必要があるでしょう。しかし、外国語の翻訳などは、AIに任せて人が翻訳することはいずれ無くなる日が来るでしょう。自分が、プロセス安全にどのように貢献できるかを考えなくてはならないと感じています。
2月12日
長年、CCPSが発行したBeacon, 書籍、公開資料などの翻訳に安全研究会の幹事として関わってまいりました。この度、CCPSからお誘いを頂きまして、"Beacon writing committee" のメンバーとなることになりました。これまでも、Beacon の題材を数件提供して2件が取り上げられましたが、今後はより深くBeacon作成に関わることになりました。気を引き締めて役割を果たして行きたいと考えております。このホームページの読者の皆様からも Beacon にふさわしい題材がありましたら、提案していただきたいと思います。宜しくお願い致します。
1月14日
明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い致します。
化学工学会安全部会が主催する「業務に基づくプロセス安全マネジメントガイドライン」の発刊記念講演会の3日目、12月14日に第6章「リスク管理」についてオンラインで講演を担当させて頂きました。OSHA PSMなど欧米のプロセス安全が対象としている領域よりも広くプロセス安全を捉えている為、より包括的な管理になっていると思います。リスクを管理するためにハザードを把握して、そのハザードによる最悪シナリオを想定してそのリスクを評価し、対策を講ずるという骨組みは変わりません。サイバーセキュリティはCCPSではPSMとは別に、PSMと同様な手法でリスクを把握して対策を講ずることを推奨していますが、この新PSMでは、それも含んでプロセス安全としています。3月10日に第2弾の発刊記念講演会が予定されていますが、私が担当の第12章「協力会社管理」はオンデマンド配信されることになりました。2月24日からオンデマンド配信される予定です。ここでも、CCPSのPSMよりも広くプラントのライフサイクルを通して協力会社のお世話になることを管理対象としています。
12月17日
経済産業省が運用している「スーパー認定制度」は欧米のプロセス安全管理(PSM)と同等の安全管理を自主的に行っている事業所に対してプラントの連続運転をより長期間認めるという制度です。レベルの高いプロセス安全管理の自主的な取り組みを促す点では良いことだと思いますが、一方で何故プロセス安全管理に取り組んでいるのかを忘れて、プロセス安全の目的がスーパー認定の取得になってしまっては、本末転倒です。丁度、一部の大学生が「勉強の目的が自身の学力向上である」ことを忘れて、「単位取得を目的」としてしまうのと同様です。全ての人がスーパー認定取得を目的としているとは申しませんが、その様に感じている人は認定を受けたら「目的を達成した」ものと勘違いして、PSMへの取り組み意欲が低下する恐れがあります。安全管理は自分たちや会社の為に行っていることであり、ご褒美を貰うことが目的ではないことを是非思い出して頂きたいと思います。
11月27日
化学工学会 安全部会で取り組んできたプロセス安全の新しい考え方が、「業務に基づく プロセス安全 マネジメント ガイドライン」として化学工業日報社から、この15日に出版されました。東京工業大学名誉教授の仲勇治がリードして、安全部会の有志が集まって作成したものです。私も、第12章の「協力会社管理」の主担当として執筆させて頂きました。欧米のプロセス安全よりもスコープを広げて、サプライチェーンやサイバーセキュリティにも着目してプロセス安全を考えている点で、ユニークな内容となっています。本体価格が10,000円と少し高い本ですが、日本人の考えたプロセス安全ということで、日本の文化に適した内容となっています。是非、参考にして頂きたいと思います。
12月の7日、14日、21日と3日に渡り、出版記念講演がオンラインで実施されます。興味のある方は是非参加をご検討ください。詳細は化学工学会安全部会のホームページをご覧ください。
10月17日
安全研究会のメンバーの一人から一般社団法人 日本損害保険協会のホームページに我が国の大規模火災(保険金支払い額が5億円以上)が2015年から2020年にかけて約3倍に増えていることを知らされました。「これらの事故が増えている背景には、設備の老朽化が進む一方で、熟練工の大量退職や人手不足により、技術の伝承や暗黙知の共有が困難となっていることも一因である」と記されています。化学プラントでなくても火災は発生します。燃焼の3要素、「燃えるもの」「酸素」「着火源」が揃えば火災は発生します。「燃えるもの」は化学物質に限らず、食品、紙、繊維など多くの産業で扱われています。また、「酸素」は意図的に排除しない限り、空気中に20%ほど存在しています。つまり、「着火源」をなくすことが重要だと言えますが、静電気による火花などは制御が容易ではありません。化学産業で取り組んでいる「プロセス安全」の考え方を、火災の危険性を孕む全ての産業の方たちに取り入れていただければ、我が国における火災による損失を軽減できるでしょう。人命尊重の観点からも「プロセス安全」をお勧めしたいと思います。
9月18日
台風14号が猛烈な風を伴い、九州に接近しつつあります。近年、「今までに経験したことのない~」と表現される自然現象が増えているのは、地球温暖化と切り離すことは出来ないでしょう。日本は2030年までに2013年度比で-46%の目標をあげていますが世界のエネルギー事情が厳しくなっている状況を見ると、この目標達成は容易ではないと思われます。
脱炭素社会を実現するために多くの人たちが努力していますが、アンモニアをエネルギー源とする方法も具体的に進んでいると聞いています。アンモニアは窒素原子に3つの水素原子が結合した構造になっていて、炭化水素のメタンの構造と似ています。どちらも水素が酸素と結合、即ち水素の燃焼によるエネルギー放出を利用するものです。炭化水素は炭素数が多いほど分子が大きくなり、常温で液体として扱うことが出来ますが、アンモニアは沸点が-33℃ですので、常温では加圧した液体として扱うことになります。
炭化水素と異なる点は、アンモニアが人体に有害な物質であることです。エネルギー源として利用する場合は、大量に扱うことになるので、安全に保管・輸送出来る様にすることは当然として、万一漏洩した場合に備えて保護具や避難場所を確保する必要があります。AIChEの会報誌CEP(Chemical Engineering Progress)の2022年7月号にはアンモニアの漏洩に備えたシェルターの設計に関する記事が記載されています。いつの日か、日本でもアンモニア用のシェルターが作られることになるかもしれません。
8月14日
ここ、宇都宮は雷の多い都市として有名です。1年を通すと冬に晴天が多いためトップにはならないそうですが、夏の雷の多さは日本一だとのことです。ところで、8月5日にキューバの石油備蓄タンクに雷が落ちて大きな火災になりました。私の見た記事には、125名が負傷し、17名の消防士が行方不明で、一人の遺体が発見されたとありました。そこで、日本の避雷設備に関する法律を調べてみると、建築基準法と消防法に僅かな記述があるだけで、後はJISに準拠する様に書かれていました。米国ではNFPAが消防法に準ずる形で採用されていますが、NFPA 780 "Standard for the Installation of Lightning Protection Systems"には、118ページに及ぶ解説がありました。消防法が「指定数量の倍数が10以上の危険物を取り扱う施設」に避雷設備の設置を求めているだけであるのに対して、NFPAの情報量が極めて多いのに驚きました。来月のProcess Safety Beacon の話題が落雷ですので、安全研究会でも多くの話題を提供できると思います。PSB9月号の安全談話室をご覧頂ければと思います。
7月21日
先週、13日に東京地裁から東京電力元会長ら4人に13兆円に及ぶ賠償命令が出ました。これは経営者に安全に関する責任があることを明示した裁判結果と言えます。事故は現場の問題と見なして経営者が適切な判断をせずに放置することは許されないという判決です。今後、この裁判は控訴・上告へと進むだろうと思いますが、これまでの経営者の意識を変えるきっかけになるものと感じています。リスクを取らないビジネスは存在しませんが、もし、被告の4人がリスクに目をつぶらずに出来る限りの対策を講じていたら、この様な判決を受けずに済んだだろうと思います。この事故の内容が報道された際に感じたことは、東京電力がプロセス安全に取り組んでいたら津波の被害は受けたとしてもメルトダウンに至ることは無かった筈だと言うことです。リスクを伴う工場の経営者の皆さんが、真剣にプロセス安全に取り組むことを願っています。
6月24日
CCPSは今月、"BOOK OF BEACONS", 4th release を発行しました。この本はCCPSがこれまでに発行してきたProcess Safety Beacon を取り上げて解説を加えたものです。実は、2015年3月に安全研究会がCCPSと共著の形で発行した「事例に学ぶ化学プロセス安全」のアイデアをベースにした本でして、7ぺージから8頁にかけて我々が出版した本の紹介もされています。BOOK OF BEACONS は2001年11月号から2006年12月号までのBeaconを解説していますので、今後も記事を追加していくものと考えられます。この本は紙の書籍の形態を取らず、Web上にのみ掲載されていますが、CCPSの企業会員限定資料となっている様です。既にCCPSの会員となられている企業の方は是非ご覧いただきたいと思います。
SCE・Net安全研究会では、今後の活動の一つとして、「事例に学ぶ化学プロセス安全」の続編を作成することも視野に入れて検討している所です。尚、当面は今月CCPSのホームページに公表された"CCPS Process Safety Metrics" ver4.1 の翻訳に取り組む予定です。この資料は、ver.3.2 の和訳がCCPSと安全研究会のホームページに掲載されています。無償で公開されていますので、ご利用ください。
5月19日
3月23日に発生した知床遊覧船の事故で、漸く飽和潜水による調査が始まろうとしています。プロセス安全では火災・漏洩・爆発など、従業員や周辺住民の命を守ることが第一の目的になっています。遊覧船を含む交通関連の事業でも乗客・乗員および通行人の安全を守るために、リスクを徹底的に評価して、その対策が充分であるか否かを確認した上で、対策を講ずることが大切です。また、不幸にして事故になってしまった場合にも被害を最小に止める方策も必要です。今回の遊覧船の事故では行方不明の方が多く出ていますが、もし救命胴衣に発信機が付いていたら早期に発見することが可能だったと思います。人の命を預かる企業の経営者の方達には、化学プラントのプロセス安全の考え方を参考に、しっかりとした安全管理を実施して頂きたいと思います。
4月20日
日本でも、大手の化学プラントではプロセスに潜むリスクを分析して、対策を講ずるためにプロセスハザード分析(PHA: Process Hazard Analysis)を行っています。米国ではOSHA PSM で指定量を超える危険な物質や可燃性物質を扱う工場はプロセス安全管理(Process Safety Management) に取り組むことが法的に求められており、その出だしにプロセスハザード分析があります。PHAの方法は、HAZOPやWhat-ifがよく知られていますが、何れもなかなか手間の掛かる作業である上、潜んでいる危険性に気付き辛いことも事実です。しかし、これを行わずにプロセス安全に取り組むことはできません。PHAには経験豊かな人材を入れて、チームで実施することが肝要です。米国では、PHAの実施にはPHAの経験豊富なリーダーだけでなく、現場をよく知るオペレータや保守要員の参加も求めています。PHAに参加することで自分たちのプラントの何処にどの様な危険が潜んでいるかを把握することが、現場で働く人たちにとって重要だからです。
3月16日
ロシアによるウクライナ侵攻が続いています。安全な社会の為にプロセス安全を推奨して、社会の役に立ちたいと活動をしている者として、非常に残念な出来事だと考えております。ソ連崩壊後に東欧諸国が次々とNATOに加盟していることに危機感を持っての侵略とも報道されていますが、それはロシアが威圧しているために起きていることで、ロシアと対立したいと考えてNATOに加盟しようとしている訳ではありません。このことにプーチン氏が気付いていないことが、この悲劇を産んでいる様に思えてなりません。力でねじ伏せれば、心はより遠くに行ってしまうことに気付いてほしいものです。ウクライナに早く平和が訪れることを祈っています。
2月16日
SDGsが2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択されて久しいですが、地球の容量を超えた人類の活動が自然環境に悪影響を与えていることは間違いないと思います。現在の科学技術のレベルではこの問題を解決できないのではないかと危惧しています。これは、ある意味で人類の繁栄が行き過ぎた消費と人口を招いたということで、きれいごとでは済まされない事態に直面するのではないかと考える様になりました。化学プラントも需要が伸びている間は投資と回収でビジネスが成立しますが、需要が世界レベルで低下すれば事業からの撤退を余儀なくされることでしょう。企業は事業から撤退する場面に直面した時に、適切なプラント撤去が可能な様に費用を工面し、製品のユーザーに対して供給停止に関するケアが必要になります。数十年後には人類はこの痛みを経験しなければならないだろうと思います。
12月15日
UQモバイルのコマーシャルで光島ひかりが演じる女王が「リスクを冒さないことこそ、最大のリスクだ」と叫ぶシーンがあります。これは、マーク・ザッカーバーグの「最大のリスクは、一切のリスクをとらないこと。非常に変化の早い世界で、唯一失敗が保証されている戦略はリスクをとらないことだ」から引用されたものだと思います。ビジネスはリスクを取ることにより、利益を取ることで成立しています。リスクの無いビジネスは誰にでも出来ることですので、利益は生みません。しかし、リスクは出来る限り小さくして取る必要があります。そうでなければ、リスクの結果がビジネスを潰すことになりかねないからです。かつて、ユニオンカーバイドはボパール事故により消滅しました。経営者は様々なリスクをマネージすることで利益を得て、社会に貢献している筈です。経営者にとっては、リスクを評価して対策を講ずることはビジネス行為そのものです。プロセス安全上のリスクを評価して対策を講ずることは経営者として当然の行動だと言えます。
11月12日
プロセス安全管理(PSM)では、ハザードを特定し、そのリスクを評価して対策を講ずるところから始まります。このリスク評価では、リスクの影響度と発生頻度を基にしてリスクの大きさを判定して対策を作成します。その時に用いられる頻度のデータは引き金となる事象の頻度(回/年)と対策が失敗する確率(回/回)から計算されますが、その前提となっているのは引き金事象を起こす設備・機器および安全対策に用いられている設備・機器が確実にメンテナンスされていることです。参考書籍などに記されている引き金事象の頻度(IEF)と対策失敗の確立(PFD)はメンテナンスがされていても発生する偶発故障が対象であり、老朽化の影響は考慮されていません。老朽化の管理が行き届いていなければ、想定外の事故に直面する確率は更に高くなります。書籍「化学プラントの老朽化」には、老朽化の管理の方法が述べられていますので、参考にして頂ければと思います。
10月7日
国土交通省近畿地方整備局 和歌山河川国道事務所の定点カメラの画像で2021年10月3日 15:44 頃に発生した六十谷水管橋の崩落の様子を見ることが出来ました。これと言った切っ掛けもなく、突然崩落したように見えました。この配管橋は46年前に建造されたもので、6年程前には震度7に耐えるための強化工事を実施していたこと、毎月の定期点検で異常が発見されていなかったことなどが報道されています。当初の耐用年数は48年で、補強されていることもあり、想定外の事故だった様です。原因究明はこれからだと思いますが、インフラ設備の老朽化による事故が大きな影響を及ぼした例となりました。配管橋は「化学プラントの老朽化」の第6章で、老朽化管理に配慮すべき設備の一つとして取り上げられています。リスクに基づいたしっかりとした安全管理が必要だと考えます。
9月8日
プロセス安全が企業の経営トップにあまり理解されていないという声を時々耳にします。安全が不要なものと考えている経営者は いないと思います。しかし、口先だけで「安全は大切だ」と言っていては、従業員に信じて貰えません。ビジネスを行うという事は、何らかのリスクを取って利益を得るという活動です。リスクのない所に大きな利益は無いでしょう。何故ならリスクの無いビジネスなら誰でも参入できるので過当競争になり、利益が得られないからです。経営者はプロセス安全に限らず、多くのリスクを抱えており、バランスを取って経営をしています。色々なリスクがある中で、プロセス安全のリスクは他の多くのリスクを異なり、評価可能なリスクです。残念なことは、多くの経営者が、目をつぶってリスクを取っているという事です。リスクを可視化して取る方が、目をつぶって取るよりもどれ程良いかを考えてみて頂きたいと思います。
8月15日
今年も終戦記念日を迎えました。昨年に引き続き、コロナウイルス禍の中で迎えた訳ですが、感染者数や重症者数の状況は昨年よりも悪く、ワクチンを打っても感染する人が続出しています。ところで、私たちはコロナウイルスのリスクを正しく評価できているでしょうか。リスク評価の最初の課題は危険源の特定ですが、それはコロナウイルスと捉えることが出来ます。次のステップはコロナウイルスが蔓延した場合に、最悪の場合、何が起こるかです。私は、医療崩壊により多くの人が医療を受けられずに放置されてかなりの数の人が命を失い、運よく恢復した人も後遺症に悩まされるということです。その後の世界は、今とは異なる世界になっている可能性もあります。ベッドの数は増やせても、医療従事者の数は簡単には増やせません。当面、私たち個人に出来ることは外出を控えるということでしょう。しかし、行政は「不要不急の外出を控えて下さい」とのお願いするだけで、済ませるわけには行きません。感染しない為の防護、感染者の治療、恢復後の後遺症のケア、これらを効率的に行えるシステム作りが求められています。
感染しない為の防護:PCR検査の拡充、抗体検査の拡充、効果的なマスクの普及、空気清浄機(ウイルス除去のできるポータブルタイプ)、感染者の隔離(病院、ホテル)、国産ワクチンの開発、など
感染者の治療:酸素発生器の普及、人工呼吸器の省人化、治療薬の開発、感染症治療以外のケア体制(子供・老人・認知症など)の確立、など
恢復後のケア:後遺症の把握、治療法の開発、など
プロセス安全の基本は、「リスクを把握して、許容できる程度に小さくしてそのリスクを取る」ということです。運を天に任せてリスクを取るのは、あまりに危険だと言わざるを得ません。
7月9日
昨日、化学工学会安全部会の主催で「化学プラントの老朽化」出版記念講演会が開催されました。東京工業大学の仲先生、 工学院大学の木村先生、静岡大学の武田先生に交じって私も安全研究会で和訳して公開している「CCPSのメトリクスver.3.2」について説明させて頂きました。講演では、「メトリクスと指標の違い」「ver.3.2の特徴」「プロセス事故(事象)PSE」の階層と重要な区分方法などについて、お話しさせて頂きました。その中にLC50(半数致死濃度)というものがありました。これは空気中にどの程度の濃度の化学物質が存在すると50%の生物(ホワイトラット)が死ぬか、と言う指標です。この値は物質ごとに値が異なるもので、存在するデータは実験によって求められた数値です。そして、この実験をするという事は、かなりの数のホワイトラットを死なせてきた、と言うことです。我々人類は、他の生き物の命を犠牲にして自分たちの安全の為のデータを得ているのです。存在するLC50の値は、犠牲になってくれた動物たちに感謝して正しく活用すべきだと思います。
尚、CCPSのメトリクスver.3.2は、安全研究会のホームページから無料でダウンロードできますので、大いに活用して頂きたいと思います。
6月10日
先月、アメリカのパイプラインがランサムウェアの攻撃を受けてガソリンの供給が滞ったとのニュースがありましたが、プロセス安全でもサイバーセキュリティ―が話題になっています。コンピュータの進歩により多くのプラントでDCSなど、プロセスの運転や制御、緊急時の対応などにコンピュータが使われるようになっていますが、悪意のあるハッカー達がターゲットにすることも増えているようです。インターネットに接続していなくても、USBなどからマルウェアを持ち込まれる例もあり、プロセス安全では万一の事態の一つとして考慮すべき項目になっている様です。PSMを実施しているプラントでは、PHAで「もし計測機器が故障したら」というリスクはその発生確率から検討し、対策を講じています。DCSによる対策も少なくなく、その対策が失敗する確率、つまりPFD(Probability on demand)はそのDCSのSILで決まっています。しかし、DCSがハッキングされたとなると、DCSによる防護策は独立防護層にならない可能性があります。大事故の可能性があるハザードについては、DCSがハッキングされてもリスクを充分に低減できているかを確認するべき時代になったと言えるでしょう。
5月7日
先月は、CCPSのメトリクスに関する資料の翻訳がSCE・Netの安全研究会のホームページに掲載されたことをお知らせしました。そこで気付いたことですが、「メトリクス」と言う言葉と「指標」という言葉を混同されている方が多いことです。「メトリクス」は何かを測定する方法です。物の長さを測るのに「メートル基準で測る」とか「インチ基準で測る」というのがメトリクスです。基準が異なれば当然、結果の数値も異なります。「指標」は同じメトリクスで測定した数値を用いて、何らかの判断をするためのものです。測定した数値そのものが「指標」になることもありますが、多くは比較対象となる数値が存在します。例えば「去年の4月このエリアの交通事故は5件だったが、今年の4月は10件であった」とすると事故が2倍に増えたことになるので、原因を探して対策を打ちましょう、ということになります。同じ業界で同じメトリクスを使用していれば、同業他社との比較が可能になり、自社の改善に繋げることが容易になります。
4月3日
CCPSのメトリクスに関する資料の翻訳がSCE・Netの安全研究会のホームページにも掲載されました。メトリクスの先行指標と遅行指標について混乱があるようですので、少し説明致します。遅行指標は起きてしまった事故に関する指標で、先行指標はこれから起こるかも知れない事故に対する指標であることは誰もが認めることです。混乱はニアミスを含め、小さな事故の指標です。これらは、小さな事故が発生したことをカウントしていますので、小事故に対しては「遅行指標」です。しかし、ハインリッヒの法則が示す様に小さな事故は大きな事故の予兆ですので、小さな事故の増加は大きな事故の「先行指標」でもあります。CCPSのメトリクスでは、Tier 1からTier 4までの4段階に区分していますが、一番上のTier 1 だけが純粋な遅行指標で、Tier 4 だけが純粋な先行指標です。Tier 2とTier 3は遅行指標であると同時に上の階層の事故の先行指標となっています。尚、API RP 754 の改定に伴い、この4段階の区分の方法が変わり、従来はTier 1事故だけに報告義務がありましたが、Tier 2にも報告義務が生じています。勿論、これは米国内での話です。
3月7日
CCPSのメトリクスに関する資料の翻訳を完成して、CCPSのホームページに掲載されました。"CCPS metrics"で検索して頂ければ、April 2018 Version 3.2の項目の下にProcess Safety Metrics: Guide for Selecting Leading and Lagging Indicators (Japanese) Version 3.2が出てきます。これをクリックして頂ければ日本語訳をご覧いただけます。プロセス安全に取り組んでおられる企業の皆様には、是非ご活用いただきたいと思います。
1月12日
明けましておめでとうございます。コロナウイルスの勢いが止まらない状況が続いています。FTA分析手法の中で、人の行動がエラーを起こすのは「認知」「判断」「伝達」「実行」のどこかで失敗をしたためであると説明しております。これは組織にも当てはまることです。組織として状況を正しく「認知」して正しい「判断」を行うこと。これは組織のリーダーに求められていることです。それが組織のメンバーに正しく伝わらなければ、正しく「実行」されることはありません。今、コロナウィルスと戦っている私たち日本人は、これら全ての段階で正しく出来ているでしょうか。リーダーが正しく「認知」し「判断」出来ていない、若しくは正しく「伝達」出来ていない場合、その組織のメンバーは各自で正しく「認知」「判断」「伝達」「実行」する必要があります。安全管理にも共通する、一歩進んだ方法は、本人だけに任せるのではなく、正しく「認知」「判断」出来ている人が、出来ていない人に「伝達」して正しい「実行」を促すことです。身の回りに「不要不急」の意味を取り違えている人はいませんか?
12月13日
コロナウイルスに振り回された2020年が終わろうとしています。欧米やロシア、中国ではコロナウイルスに対するワクチン接種が開始されました。報道番組などでは、ワクチン接種を受けるべきか否か、という議論が散見されるようになっていますが、この結論はリスクをどう評価するかによります。ワクチンを接種しない場合、コロナウイルスに感染して重症化し、後遺症に悩まされたり死亡するリスクをどう見るのか。ワクチン接種を受けて副作用により、アナフィラキシーショックなどで死亡するリスクを取るのか。高齢者や基礎疾患を持っている人の感染リスクが高いことは判っていますが、今は未だ副作用のデータが不足しています。しかし、私たちがワクチンを入手出来る頃までには、欧米でのデータがかなり出て来ていると考えられます。結論はそれまで待っても良いかもしれません。但し、若い人でも摂取しない場合、リスクには自分が無症状又は敬称で済んで、家族や知人にうつすリスクをどう評価するかも考えておく必要があります。この考え方は、LOPAを用いて安全対策を考える時とよく似ています。
では、皆様、良いお年をお迎えください。
11月14日
現在、CSE・Netの安全研究会ではCCPSが2018年に発行した"Dealing with Aging Process Facilities and Infrastructure" という書籍の翻訳に取り組んでいます。全体の翻訳を終えて、会のメンバーで査読を行っているところです。12月末には丸善出版に原稿を渡して来年6月頃に上梓されることを予定しています。プロセス設備の老朽化は日本でも大きな問題になっています。米国は第二次世界大戦の被害を殆ど受けていないこともあり、日本では見られないほど古い設備も存在し、日本よりも深刻なようです。この本を読むと、これらの問題に対処するにもプロセス安全管理(PSM)が極めて重要であることが判ります。プロセス設備のみならず、そのインフラ設備の健全性を維持しなければ、化学工場のプロセス安全は確保できません。本の内容はプロセス安全を理解していれば、当然と思われることが少なくありませんが、その通りに管理出来ている化学工場が日本にどれだけあるかは心配です。出版が決まりましたら、ここでも紹介したいと思います。
10月20日
先日、テレビで興味深い放送がありました。一軒家のリビングで二階に誰もいないのに、時々天井からガタンガタンという音がするというのです。そこで調査を行ったところ、リビングの天井裏に水道の配管が通っていて、そこから離れた場所に設置された洗濯機が水の供給を止めるときに配管が振動していたのです。配管内の流動を急激に動かしたり、止めたりすると、その慣性で配管に衝撃を与えます。これはウォーターハンマーと呼ばれる現象です。このため、リビングの天井裏の部分の配管サポートが外れて配管が暴れていました。長期間放置していれば、配管が破損してリビングが水浸しになった可能性がありました。化学工場でも、異音に気付いたことで事故を防止出来たという話は少なくありません。日頃から周辺の変化に注意を払い、何か異常を感じた場合は、原因を究明して対策を講ずる必要があることを再認識させる良い番組でした。
ところで、洗濯機のメーカーにはウォーターハンマーが起こらない製品を開発して頂きたいと思います。
9月23日
日本も含め、世界の化学プラントで発生した事故をレビューしている中で気になっていることは、その多くが「安全な状態から危険な状態」に移行した場面ではなく、「危険な状態から安全な状態」に移行を試みた際に事故になっていることです。例えば、原料の一部を徐々に加えて行う反応の場合、撹拌機が停止してしまった後、暫く経ってからそれを稼働させると、未反応物質が大量に溜まっていて一気に反応が進み、暴走反応となる危険性があります。あの有名なテキサスBPの事故の場合は、スタート作業のある時点でオートモードにすべきコントロールバルブを閉じたまま運転を続けた為に蒸留塔内にラフィネートが溜まっていました。後で、そのバルブが閉じていたことに気付いて、慌てて開けたところ、高温になっていたボトム液がフィード液との熱交換器(プレヒーター)に流れ始めてフィード液の温度が急激に上昇しました。この高温のフィード液が塔内に溜まったラフィネートを突沸させて安全弁が開き、ブローダウンドラムのトップから噴出したものでした。「危険な状態から安全な状態」にしようとするのは、ある意味当然ですが、その状態を正しく把握して、正しい方法で操作しなければ、事故になる可能性は高いと言えます。危険な状態を正しく把握するには、運転用だけでなく、安全用の計装設備が必要です。
8月17日
レバノンのベイルートで硝酸アンモニウムの爆発事故が起きてから2週間が経過しますが、原因の調査がどの様に進められているのかは、中々報道されていません。今回の事故で爆発した硝酸アンモニウムの量は2750トンと言われています。硝酸アンモニウムは窒素肥料として農業では広く使われていましたが、日本ではその危険性のために肥料としては使用されなくなっています。2013年4月に米国テキサス州の農薬倉庫で30トンの硝酸アンモニウムが爆発して、15名が犠牲になってます。ベイルートの事故の場合、硝酸アンモニウムの量がそのほぼ100倍ですから、その威力は凄まじいものであったことが容易に想像できます。問題は、何故その様な危険な物質を大量に都会に保管していたのかという事です。レバノンの様な政情不安な国では、敵の格好のターゲットとなるだろうことも想像できます。CSBはテキサスの事故の後で、硝酸アンモニウムがOSHA PSMの対象物質とされていなかったことを指摘しています。しかし未だ、PSM対象物質のリストには掲載されていない様です。私は早急な改善が必要だと思います。一方、レバノンでもアメリカの事故から学んで、硝酸アンモニウムをハザードとして対策していれば、この事故は起こらなかった可能性があります。プロセス安全が化学会社だけのものではないことを示した教訓です。
7月19日
新型コロナウィルスの感染拡大が止まりません。ワクチンが無い状態では、自己防衛をせざるを得ないと思います。3密を避ける、手を洗うなどだけでは守り切れないでしょう。空気中のウィルスを出来る限り排除することも必要です。大阪府立大学の秋吉先生がコロナクリーナーの開発を研究されており、その試作機を送って頂きました。構造はフィルターに酸化タングステンの光触媒を塗布し、触媒を活性化するためにLEDの光を当てたものにファンで周辺空気を通すことで、空気中のウィルスを不活化するものです。私も、この方法を真似て、右の写真の工夫をしてみました。百均で購入した扇風機のカバーに酸化タングステンのスプレーを塗布し、扇風機に掛けたものです。光触媒を活性化する為に、LEDランプも点灯させています。背面は塞がないようにしました。これはシャープのプラズマクラスター扇風機で、イオンを発生するので、ウィルスが静電気の影響を受けて触媒に接触する確率が高くなることを期待します。
酸化タングステンのスプレーは東芝マテリアルのルネキャットです。
2020年7月2日
CCPSが2018年に発行した"Dealing with Aging Process Facilities and Infrastructure"の翻訳に取り組んでおり、査読にまわしたところです。この本は、老朽化したプロセス機器や関連するインフラストラクチャの保守について書かれた概念書です。その中で、「老朽化はその設備が如何に古いかの問題ではなく、きちんと保守・整備されていて、危険な状態になる前に交換すること」と言った趣旨の説明がありました。設備が古いかどうかに気を取られてはいないでしょうか? 来年の6月頃に丸善出版から和訳版を上梓する予定です。
2020年5月31日
5月7日の午前3時頃、インド東海岸 アーンドラ・プラデーシュ州のビシャーカパトナム市でポリスチレンの工場から大量のスチレン等の蒸気が流出して、13名の犠牲者が出たとの報道がありました。事故現場の写真からスチレンが入っていたと思われるコーンルーフタンクから大量の蒸気が写真の右方向に流れていることが分かります。Google Mapから、どのアングルで取られたかを推定して見ると 下図の青矢印であったと考えられました。すると、有毒な蒸気は赤矢印の方向に流れたことが推定されます。雑木林を通り抜けて市街地に流れたと思われます。ここで大切なことは、この設備を設置する際にPHAで、この様な事故を想定していたかどうかです。最悪の事態として、このタンクの全量が流出した場合、風向きによって市街地に流れることを想定していたとは思えません。このような危険な物質を貯蔵するタンクは万一に備えて、タンク容量を小さく設計して、個数を多くすることが考慮されるべきでした。また、冷媒システムのトラブルが事故の原因だとの報道もあります。冷蔵しなければ、危険になる物質や反応は少なくありません。皆さんのプラントに冷媒システムがあるなら、そのトラブルもPHAでしっかりと吟味して、対策を講ずる必要があります。
2020年5月1日
先月このコラムに書いたCOVID-19の影響ですが、思っていたよりも感染拡大のスピードは抑えられています。これは、多くの人が感染しない様に外出を自粛しているお陰だと考えます。しかし、外出自粛だけではCOVID-19を撲滅することは困難だと考えています。それは無症状の感染者が、他の人に感染させる可能性がある以上は、少しづつでも感染が継続されると考えられるからです。過去の伝染病制御の例では、感染爆発を起こした都市の方が医療崩壊による死者が多かった一方で、外出自粛で感染爆発を免れた都市は感染が止まるまでの時間が長く掛かったというデータがあります。外出自粛というブレーキを緩めれば、再び感染速度が加速して医療崩壊を招く恐れが否定できません。私自身、不要不急の外出を控える生活は当分続くものと覚悟しています。
2020年4月2日
COVID-19の影響が広がっています。PSMの観点からこの事態を考えると、新型コロナウィルスの騒ぎが始まったのは今年の1月末頃でした。その後、無症状の人にも感染させる可能性が公表されました。この時点で影響度分析をしていれば、最悪の事態としてパンデミックの発生は予想されていた筈です。そこで有効な対策は、健常者であっても外出を控えて人と人の接触を極力避けることでした。それは、諸外国との交流も止めるということも含みます。現時点では、感染ルート不明の患者が増えてきていますので、完全に封じ込めることは不可能です。我々が今出来ることは、やはり外出を控えることですが、それは感染爆発の規模を抑えて被害を最小限に留めるだけです。化学反応で言えば、暴走反応を止めることが不可能なフェーズに入っていて、死なないために出来る限り安全な場所に身を置くことと同じです。感染爆発の規模が小さく済めば、医療崩壊による死者の数は少なく出来ますが、この影響を受ける期間は長くなります。大半の人が感染した後に治癒して、免疫を持つ人が大多数を占めるか、特効薬が開発されて掛かっても重症化せずに治すことが出来るようになるまで、この異常事態は続くものと考えざるを得ません。安全対策の基本は、常に最悪に備えて行動し、不要なリスクは取らないことです。
2020年3月15日
化学工学会誌 2020 No.3 Vol.84 の特集「化学プラントのライフサイクル・エンジニアリング」の記事として、「化学プラントのライフサイクルにおけるプロセスハザート分析の必要性」が掲載されました。プロセス安全管理(PSM)の中でのプロセスハザート分析(PHA)の位置づけから始めて、PHAがどの様な場面で必要になるかを解説しました。一般に部品取りと呼ばれている「カニバリズム」についても説明しております。老朽化設備に関する管理に興味をお持ちの方は、是非ご覧ください。
2020年2月28日
リスク管理という観点からは、新型コロナウィルスもプロセス安全の問題も同じだと思います。現在は緊急事態で、コロナウィルスという目に見えない火災が発生したと考えても良いでしょう。冷静に状況を把握して対策を講ずることが大切です。政府が公立の小中高の休校を要請したことは当然だと思います。一方で、この要請により困難な状況に直面する人も少なくないでしょう。各現場が知恵を出して対応しなければならない事態です。一方、政府は次の手を考える必要があります。コロナウィルスと戦う最前線は医療機関であることは間違いありません。この観点から医療スタッフに対する支援を万全とする施策が求められます。病院からマスクの不足が訴えられています。マスクメーカーに対しては医療機関に優先的にマスクを提供することを義務付けるべきです。また、一部にこのウィルスに効果が見込まれる薬が出ています。これらも、重篤な患者には当然ですが、医療関係者が感染したと思われる場合は積極的に使用することなどを緊急立法するべき時だと考えます。国会は予算の会議などをしている場合ではないと思います。
2020年2月18日
新型コロナウィルス(COVID-19)の国内での感染ルートが掴めない状況になって来ています。そこで、少し対策について調べてみました。このウィルスはエンベロープウィルスの一種で、表面に脂肪の膜を持っているとのことです。このタイプのウィルスは、エタノールでエンベロープが破壊されるので、エタノールでの消毒が効果的なようです。東京医療保健大学大学院 医療保健学研究科 医療保健学専攻 博士課程の神明朱美さんの論文によりますと、「36 v/v%のエタノール濃度では供試した7株のエンベロープウイルスのうち2株で抗ウイルス効果が認められた。45 v/v% 以上のエタノール濃度では、供試した7株すべてのエンベロープウイルス株に対して抗ウイルス効果が認められ」とのことです。現在、市場から医療用消毒エタノール(約80%)が消えていますが、45%以上のエタノールが含まれている除菌スプレーなどでも効果があると予想されます。また、銀イオンもウィルスを不活性化すると言われており関西大学工学部生物工学科の松村吉信さんによりますと、「銀イオンは細胞表層やDNAなど多くの細胞成分と複合体を形成することも知られており、様々な細胞機能を阻害することが予想される」とのことです。この他、家庭で漂白剤として使用されている次亜塩素酸ナトリウムの水溶液もウィルス除去に効果があるようです。「消毒薬一覧」を見ると、ザルコニン(ベンザルコニウム塩化物液)は、細菌には効果があるが、ウィルス除去には効果が無いようです。それぞれの特徴を把握して、安全に利用したいと思います。
2020年1月26日
昨年、㈱工業通信から執筆を依頼されていました配管工事後の耐圧・漏洩テストの安全に関する記事が「化学装置2月号」に掲載されました。日本では高圧容器に関する法律はありますが、配管に関しては統一した法規や基準が示されておらず、やり方がまちまちです。この記事では、米国のASMEとAPIの内容を通して、我々が参考にすべきことを紹介しています。配管の耐圧・漏洩テストに関わる人たちの安全を確保しつつ、有効なテスト方法が示されていますので、工事関係の方やプロジェクト関係の方の参考になればと思います。
2020年1月11日
明けましておめでとうございます。
この正月は、CCPSの書籍 "Dealing with Aging Process Facilities and Infrastructure" の翻訳に時間を割くことが出来ました。これから、SCE・Net 安全研究会のメンバーと内容の見直しを行い、6月頃までに原稿を仕上げて出版社に出したいと考えています。日本は第二次世界大戦で殆どの工場が焼失したため、それよりも古いプラントは無いと思いますが、米国にはかなり古い設備が相当数、残っていてそれらの処置で苦労をしている様です。ただ、日本でも建設後、数十年が経過した設備が数多く残っていて、頭痛の種となっているとも聞いていますので、この本はその様な方たちの役に立ってくれるだろうと期待しています。出版は来年6月を目標としています。
2019年12月29日
今年も残り少なくなりました。昨年末に上梓した「若い技術者のためのプロセス安全入門」をテキストとした安全講習をSCE・Netで実施したこと、この本が再版されるに至ったこと、四国の化学会社のコンサルティングを続けられたこと、など当研究所として充実した一年でした。現在はCCPSの書籍"Dealing with Aging Process Facilities and Infrastructure"の翻訳に取り組んでいます。来年は、この本の出版準備で忙しくなりそうです。
では皆様、良いお年をお迎えください。
2019年11月28日
今月は、化学工学会誌、化学装置の原稿締め切りと2件の講演でアップデートが遅くなりました。
来年2月号の「化学装置」の配管特集向けに配管工事後の耐圧・漏洩テストの安全について執筆しました。日本では配管のテストを水で行う代わりに空気で行うことが多いと感じていますが、これは実は危険なことです。圧縮された気体にはエネルギーが蓄積されていて、事故も発生しています。しかし、国内にはこのテストを安全に実施する為の指針が出されていません。一方、米国ではASMEとAPIに耐圧・漏洩テストの実施方法が規定されており、我々が参考にすべきことが多く含まれています。今回、「化学装置」の原稿では、ASMEとAPIを参照しながら、安全にテストを行う方法のヒントを書かせて頂きました。
配管の耐圧・漏洩テストに関わる方には是非ご覧いただきたいと思います。
2019年10月15日
台風15号に続いて、台風19号の被害が報じられています。本日17:36のNHKの報道によれば、67人が死亡、 1人が心肺停止、 15人が不明、 218人が怪我をし、今もなお全容は不明とのことです。15号の被害が強風によるものであったのに対して、今回は大雨によるものが主でした。19号が極めて大きな台風になったことは、日本近海の海水温度の上昇が原因だと言われています。これは地球温暖化によるもので、この傾向は今後も続くと思われます。我々が便利に生活するために放出している地球温暖化ガスが激しい気象と言うブーメランになって戻ってきているのです。このブーメランを止めるには便利さの追求による温暖化ガスの放出を止めなければならないのではないでしょうか。我々、ひとり一人が自らの生活様式を見直す時期になっていると思います。
2019年9月16日
台風15号の影響が未だに続いていて、千葉県では未だ多くの方たちが停電の中で暮らされている様です。千葉県に住む知人に電話で確認をしたところ、特に内陸部分は倒木や電柱が倒れるといった被害が多く、復旧作業が遅れているとのことでした。この被害の状況を見ますと、この地域で経験したことのない強風が吹き荒れたと考えられます。現役時代に設計値を超える雨のためめ、工場のオフィスでまるで滝の様に雨漏りしたことがありました。屋根の周りに設置したパラペットがダムの様になって雨が天井裏に入り込んだことが原因でした。プロセスハザード分析の際に、自然災害に目を向けたハザードの特定が益々必要になっていると感じています。
2019年8月15日
プロセス安全管理(PSM)に取り組んでいるプラントが国内でも次第に増えていると感じています。「若い技術者のためのプロセス安全入門」をテキストにしたSCE・Netの講習会(7/8実施)にも多くの方が参加して下さいました。リスクに基づくプロセス安全(RBPS)の基本をお伝え出来たかと思います。
ところで、リスクアセスメントは国内でも以前から実施されていますが、二重のエラーは考えられていないことが多いと思います。しかし、大惨事となった事故事例を調べてみると多くの場合、二重のエラーが絡んでいます。全てのハザードに二重のエラーを考えていては、対策に掛かるコストは膨大になってしまうでしょうが、大惨事は避けなければなりません。そのためには、「どうしたら、大惨事を起こせるだろうか?」という「プロセス安全の敵の視点」で安全設計を見直して、そのシナリオを防ぐ対策を打つことが必要だと考えています。防護壁は内側からだけでなく、外側からも弱点をチェックすることが大切です。(CCPSのPSB担当者とのやり取りで、一部表現を変更しました。8月18日)
2019年7月19日
京都アニメーションが放火に遭い、悲惨な結果になっています。犠牲になられた方たちには心からお悔やみ申し上げます。報道を見ていて気になったのは、3階から屋上に通じる階段に多くの方が倒れていたことです。化学工場ではいつ火災が起きても避難できるように避難経路を考えた設計を行い、年に一度は避難訓練をしている所が多いと思います。しかし、まさかマンガ映画を作っている作業所が放火されるとは考えていなかったと思います。もし、避難訓練を実施していて、屋上に避難することが重要な避難経路であると知っていれば、対策を講ずることが出来ていたのではないかと思います。どのような職場であっても、「万一の場合の避難経路を確認すること」が大切だということを再認識させられる事件でした。
2019年7月10日
ハンセン病患者の家族の方たちに対する補償問題の訴訟で、政府が控訴しない決断をしたことは歓迎すべきことだと思います。問題は過去においてハンセン病患者を隔離する政策を決定したことと、感染力が弱く隔離の必要が無いと判明した後も隔離政策を続けたことにあると考えます。国家のトップマネージメントが素早く適切な判断を出来なかったことが患者と家族の悲劇を生んだと言えるでしょう。これはプラントの安全管理にも通じるところがあります。PSMでは安全管理に問題を認識した場合は直ぐに対応することが求められています。対応が遅ければ、その間に被害が発生するかもしれないからです。会社の経営者は自社のリスクを把握したら適切に判断して素早く対処すること。これが会社を持続させるための必須条件と言えるでしょう。
2019年6月6日
先日、スクールバスを待つ小学生や保護者が殺傷され、加害者もその場で自殺するという痛ましい事件がありました。加害者が引きこもりであったことが報道でクローズアップされたことに、引きこもりを支援する人たちからは、「引きこもりが犯罪の温床であるごとき印象を与えるものだ」との批判がありました。それはそれで、正しいと思いますが、心の闇を抱えて社会との接点を失った人とどのように接するべきかは一括りにはできない問題だろうと思います。安全の原点は、「自分も他人も安全でありたい」との願いです。自らを破壊して、他者も巻き添えにしようとする心の持ち主も、生まれたときは唯の赤子でした。その人が、どこでどのように心が壊れる事態に巻き込まれたかを見出さない限り、同様な事件を根絶するのは難しいと感じています。
2019年5月6日
ブックオフで見つけて茂木健一郎氏の「ひらめきの導火線」を読んでみました。最終章の「日本を新時代に導くために」という章では、日本と欧米を比較している部分がありました。その一節に「アメリカでは、個人と組織の関係はむしろ自由に関係を結んだり解消したりする affiliation に近い」と書かれている部分があります。ある意味では、茂木氏の言う通り、これはアメリカの持つアドバンテージで、自由な発想でいろいろなことに挑戦できる社会基盤だと言えるでしょう。しかし、プロセス安全の観点からすれば、そうとも言えません。安全文化を身に付けさせるために従業員を何年もかけて教育しているのですから、そうコロコロと辞めてもらっては困ります。その意味では、日本の終身雇用の様な社会システムの方が安全文化構築の面ではアドバンテージがあると言えるでしょう。
2019年4月17日
私たちが子どもの頃、医者や学校の先生はインテリジェンスの象徴のようなもので、多くの人から尊敬される職業でした。しかし、何時ごろからか、学校の先生が「でもしか先生」と呼ばれ、モンスターペアレンツの餌食になり、残業からも抜け出せない過酷な職業になってしまいました。医者も若い勤務医の残業は当たり前となり、患者よりも自分の健康を考えなければならないひどい状態だと聞いています。これを社会が病んでいる状態だと感じるのは私だけでしょうか? 医師や教育者が社会にとって重要な存在であることは間違いありません。彼らが快適に仕事を行うことの出来る社会体制を確立することは、この国にとって急務だと考えます。
2019年3月7日
昨年の日経サイエンス6月号に「勝つための議論」の落とし穴、という記事が掲載されています。その中に「客観主義者」と「相対主義者」という言葉が出てきます。客観主義者は倫理的・政治的な問題についても数学と同様に客観的な正解があると考える人で、相対主義者とはそうでない人を指します。興味深いことは記事のタイトルにある様に、「勝つための議論」即ち相手を打ち負かそうとして議論を行うことで、その人はより客観主義に近い考えを持つようになることが分かったということです。つまり、「勝つための議論」をしていると自分は正しくて、相手は間違っているという論理を展開することになり、相手から学ぶ機会を失うことになると言うことです。これは何かについて議論をしようとする時に気を付けなければならない重要なポイントだと思います。
2019年2月1日
昨日は化学工学会安全部会の「新PSMガイドライン作成WG」のテクニカルレポート発刊記念講演を聞きに東京大学の山上会館に行ってきました。仲先生ご指導の下、私もWGの一員として微力ながらテクニカルレポート作成に協力させて頂いたものです。ここで日本の企業3社のPSMの取り組みに関する報告があり、真剣にPSMを実施している様子が分かりました。この動きが、他の日本企業にも広がることを願っています。
ところで、後援会後の交流会でDow社の方と話をする機会を得て、CCPSがRAST(Risk Assessment Screening Tool)というエクセルマクロベースのプログラムを無償で提供していることを知りました。このソフトは条件を入力して実行すると自動的にリスクを特定して分析してくれるとのことでした。早速、ダウンロードして試してみようと思います。しかし、CRW4(Chemical Reaction Worksheet)に続き、この様なソフトウェアをCCPSが無償で提供できることに驚かざるを得ません。CSBと並んで、米国の底力を思い知らされました。
2019年1月4日
明けましておめでとうございます。
昨年はCCPS書籍の翻訳事業と安全コンサルティングで充実した一年となりました。特に「若い技術者のためのプロセス安全入門」は化学工学会安全部会が翻訳した「リスクに基づくプロセス安全ガイドライン」と同時に発行されました。RBPS(RiskBased Process Safety)を日本語で読むことが出来る書籍2冊が揃ったことに意義があると考えています。OSHA PSMを更に進化させたRBPSがより多くの企業のプロセス安全に役立つことを願って止みません。
2018年11月8日
CCPSが発行しているProcess Safety Beacon (PSB)の11月号が公表されました。今回は株式会社日本触媒の姫路工場におけるアクリル酸タンク爆発事故が事例になっています。これは安全研究会がCCPSから依頼されて元の原稿を作成したもので、日本触媒の全面的な協力のおかげで作成されました。一般的に考えると、自社の事故事例を世界中の人に見られることには抵抗感があってしかるべきだと思います。しかし、日本触媒は快く承諾してくださいました。プロセス安全の世界では、他社の事例も含めて過去の事故から学ぶことが強く奨励されています。この理念を理解して、自社事例の掲載を承諾された日本触媒の見識の高さを高く評価すると共に、資料提供などでご協力いただきました日本触媒の皆様に心より感謝いたします。
2018年10月7日
9月はPSM監査の実施やコンサルティングに忙殺されて、メッセージのアップデートが出来ませんでした。
現在、安全研究会では、CCPSの"Introduction to Process Safety for Undergraduates and Engineers"の翻訳を進めており、校正が進んでいるところです。田村先生に査読して頂いて、丸善出版から年内に上梓する予定です。ところで、この本が解説しているプロセス安全はCCPSが開発したRBPS(Risk based Process Safety)です。アメリカではOSHA PSM が特定化学物質を指定量以上扱う事業者に義務付けられていますが、このRBPSはこれをさらに発展させたものとなっています。OSHA PSMがPSMのあるべき姿を表わした設計図のような物とすると、RBPSはそのPSMを如何に運用するかを表わした運転マニュアルのような物と言えるかもしれません。PSM自体の設計図と手順書が用意されたとすると、次は「それでも巧く行かない場合」の対応策といったところでしょうか? アメリカのPSMは休むことなく発展していると感じています。
2018年8月16日
事故調査チームがその原因分析をする際にFTAを利用することをお勧めしていますが、その利点をもう一度考えてみましょう。事故の原因を見出す方法としては、「3M」「4M」「フィッシュボーン」なども挙げられますが、やはり「なぜなぜ分析」が最も一般に用いられています。安全研修などで課題に取り組んで頂きますと、これらのどの方法で原因分析をしても、受講者チームは与えられた情報の範囲の中に原因を見出そうとし、根本原因に到達できないケースが殆どです。それに対してFTAを使用した場合は、多くのチームがより多くの可能性に言及して、与えられていない情報の中で何が重要かを指摘することに成功しています。本質的に「なぜなぜ分析」と「FTA」は事象の直接的な要因を追い続けるという意味で同じ筈ですが、「FTA」ではチャートを作成することで視野が広げられると考えられます。大きな事故の報告書で原因究明をしっかりと行っているのもでは事実確認のために実験を行っていることが少なくありません。何が足りない情報であるかを把握できているからこそ、何を実験すべきかが分かる訳です。事故の原因分析には、是非FTAを活用して頂きたいと考えております。
2018年7月12日
今日届いたAIChEの会報誌CEPにモチベーションに関する記事があり、興味があったのでネットでも調べてみました。その中でBrendan Burchard氏の “Greatness belongs to those who have mastered the ability to focus relentlessly on their ambition and act decisively towards them.”(偉大さは、自らの野心に絶え間なく集中し、それに向かって邁進する能力を習得した人達に宿している) という言葉に出会いました。確かに偉大な人達は、その様な人達だろうと思います。私たちは何かに集中している時、前頭前野と呼ばれる大脳の部分が働いていることが分かっています。しかし、この部分は怠け者で、長続きしないものだそうです。そう言えば、大学時代の恩師、村井資長先生から頂いた色紙の言葉は「有志者事竟成」でした。志を持ち続けることが大切だという事を再認識致しました。
2018年6月26日
皆さんは「見えないゴリラ」(Invisible Gorilla)についてご存知でしょうか? これは、AIChE(米国化学工学会)の会誌CEP(Chemical Engineering Progress)の2014年7月号に紹介されており、私もその8月にこのカラムで紹介したものです。何かに集中していると、身の回りで起きていることに気付かない可能性が少なくないことを示したもので、安全の観点でも極めて重要なことです。最近の脳科学で、私たちの脳は通常は脳幹と呼ばれる古い脳(脳の中心部)で無意識に周辺のことに気付いていますが、「見えないゴリラ」の実験では集中して行わなければならないタスク「パスの回数を数える」を与えることで前頭前野と呼ばれる大脳の前の方が忙しくなり、自然に気付く筈のことに気付かなくなってしまうのだ、ということが分かって来ています。従来も「オペレータに不用意に話しかけてはならない」とされていますが、プラントの運転、特に制御システムのマンマシーン・インターフェースの設計では、これらのことを充分に考慮することが大切だと思います。
2018年5月24日
アメリカの化学工学会のCCPSが出版した図書"Introduction to Process Safety for Undergraduates and Engineers"の翻訳をSCE-Net安全研究会で行い、ようやく一通りの訳を完成しました。この本はCCPSがOSHAのPSM(Process Safety Management)を更に発展させる形で提案している"Risk Based Process Safety"(RBPS) について解説しているものです。この本に初めて出合った時に、これは日本の化学産業や石油業界のプラントで是非参考にして貰いたい内容だと思い、Wileyから翻訳の同意を取り付けて作業を開始したものです。この秋ごろに丸善出版さんから上梓される予定です。その接は、書店で手に取って御覧頂ければと思います。
2018年4月12日
アメリカの化学工学会(AIChE)の下部組織CCPS(Center for Chemical Process Safety)の文章を翻訳することが多々あります。しばしば、日本語の単語ではピッタリとした訳が見つからないことがあります。例えば、"practice"という単語ですが、"good practice"、"work practice"などが頻繁に出てきますが、なかなか良い訳が見つかりません。"good practice is to do...."などは「~するのが良い」などと逃げることもあります。「良好慣行」と訳されることもありますが、日本語としてどの程度なじんでいるかは疑問もあります。日本語に"practice"という概念が定着してないということです。"hazard"と"risk"はどちらも「危険性」と訳されることが多いのですが、英語では明確に使い分けています。私たちが日常生活で「ハザード」「リスク」と使い分けることが普通になる日が早く来ると良いと思います。
2018年3月14日
NHKの朝ドラ「笑ろてんか」も終盤に近付いています。この「笑い」には人の脳に活力を与える力があると思います。講演などで話題に合ったジョークを言うことが出来たらもっと興味を持って聞いて頂けるのではないかと思うのですが、なかなか良いジョークを思いつきません。その点、プロのコメディアンは大したものだと思います。昔、アメリカに留学していた頃、深夜のジョーク番組があり、その日の出来事をネタにジョークを連発するコメディアンがいました。語学力の低い私には判らないジョークも多かったのですが、僅かな事柄を捉えてジョークを話し続ける能力には感服しました。もし誰かが仕事でミスを犯した時に、適切なジョークを言えると、凍り付いた脳が復活して事故防止にも繋がるような気がします。まだ、誰も怪我をしていないなら、ちょっとしたミスは笑いごとで済ますのも良いのではないでしょうか?
2018年2月15日
昨年末よりイプロスのホームページ Tech Note に投稿依頼を頂きまして、この度5回シリーズの第1回が公開されました。「統計からひもとく労働災害」では「転倒事故」と「墜落・転落事故」が常に件数として多いこと、「エルゴノミクス」と呼ばれる動作の反動・無理な動作が2016年の統計データでは多いことを示し、その対策の考え方を解説致しました。「個別に分析するべき事故とは」「安全対策と人材教育」「チェックリストのカスタマイズ」についても私見を述べさせて頂きました。詳細はイプロスのホームページ Tech Noteで「工場安全対策の基礎知識1 」を検索して頂ければご覧いただけます。
2018年1月3日
新年、おめでとうございます。昨年は日本を代表する様な大企業で品質検査が正しく実施されていなかったなど、消費者の信頼が損なわれる内容の報道に接して驚かされました。私たちが何か機械・装置などを使用する際に、事故にならない為の条件は二つです。一つはその機械・装置が安全であること。つまり安全に設計されており、設計通りに製作されていること。もう一つはそれを使用する私たちがそれを安全に操作することです。機械・装置の品質検査は設計通りに製作されたことを保証するものですから、それが正しく行われなければ、その機械・装置は安全である保障がないことになります。これからは、適切な品質管理が行われるものと期待します。この様に、不適切な作業が当たり前になることを安全の世界では「逸脱の定常化」と呼んでいます。私たち日本人のほとんどが車を運転している時に、横断歩道で渡ろうとしている人を見ても停車しないのは「逸脱の定常化」の一つです。私も車を運転する者の一人として世界標準に合った運転を心がけたいと思います。
2017年12月4日
事故が発生すると、それが引き金となって次々と事故が起きてしまうことが少なくありません。大きな火災の場合、最初は小さな火事から始まることが少なくありません。勿論、爆発など最初から大きな火災から始まるものもありますが、小さく始まったものであれば、大きくなる前に消し止めることが可能でしょう。今回、お話したいのは初期消火のことではありません。最初に事故が起きてしまった時の人の行動です。将棋の羽生善治さんが「直感力」という著書の中で「対局中に反省してはならない」という意味のことを言われています。自分が何かミスを犯してしまった時に、人はほぼ本能的に「それは無かったことにしたい」と思うものです。そしてなかったことにする為の行動をとってしまうことがあります。交通事故を起こした人が逃げてしまうのも、この一種だと思います。次に同じ過ちを繰り返さない為に反省することは大切ですが、それは事態が収拾してから行うべきことです。ミスを犯した場合、それが次の事故の引き金とならない様に最善の方法を考えることが大切です。そのためには、日頃からどの様なミスが起こり得るのかを予測して、それがどの様な事故に繋がる可能性があるかを考えておくことが必要だと考えています。
2017年11月2日
事故をFTAで分析していると、ほぼ確実に人間の失敗即ちヒューマンエラーが含まれています。これを認知・判断・伝達・実行のどこかのフェーズで失敗したことで発生すると説明して来ました。これら全てのヒューマンエラーはその人の脳の中で発生しています。認知で重要な要素として三次元空間の認識があります。今プロセスの何処で何がどの様になっているかを心の目で見ることが出来ること。これは化学プロセスの安全にとって極めて重要です。DCSや計器の指示値の情報から何を想像できるのかが、オペレータをはじめプロセスの運転に関わる人の能力を左右します。三次元空間の認識はプラントの構造やレイアウトを理解する上でも大切ですが、機器や配管の中がどうなっているかを想像する為にも重要で、この能力を取得するには相当な訓練を必要とします。この空間を認知する脳の部位が海馬にあることがオキーフ博士によって見いだされ、ノーベル賞を授与されたのが2014年でした。まだまだ、未知の分野ですが、脳の働きの研究が安全に繋がる日はそれほど遠くないと考えています。
2017年10月11日
化学工学会 SCE-Net 安全研究会では毎月PSB(Process Safety Beacon)を和訳していることを前回のメッセージで紹介しました。この度、このボランティア活動に対して、AIChEとCCPSから感謝状と楯が贈られました。これからもPSBの和訳は勿論のこと、CCPSの書籍"Introduction to Process Safety for Undergraduates and Engineers"の和訳に取り組むなど、我が国の化学プロセス安全に微力ながら貢献を続けたいと願っております。
2017年9月15日
9月12日の 4th CCPS Global Summit for Process Safety at Okayama に参加して、CSBのboard member の一人の方に話を聞くことが出来ました。トランプ大統領はCSBの予算をカットする提案を出しましたが、Congress がこれを認めず、CSBの予算は確保できたとのことでした。従いまして、CSB議長からの声明は削除致しました。
2017年9月7日
化学工学会 SCE-Net 安全研究会では毎月AIChE(米国化学工学会)の下部組織CCPS(Center for Chemical Process Safety)が発行しているPSB(Process Safety Beacon)を和訳して、月刊誌「化学装置」とSCE-Netのホームページに掲載しています。この事業は2006年4月号から行ってきましたが、この度化学業界の皆様から、「これ以前のPSBも和訳して欲しい」とのご要望がありましたので、メンバーで手分けをしてPSB第1号の2001年11月号から2006年3月号まで全てを和訳致しました。PSBは「事例に学ぶ化学プロセス安全」の基になった安全情報で、広く世界の化学業界や石油業界で読まれています。日本の皆様にも是非、活用して頂きたいと思います。
2017年8月22日
来月、12日と13日に岡山コンベンションセンターで第4回CCPS Global Summit on Process Safety が開催されます。化学工学会SCE-Net安全研究会もポスターセッションで当研究会のこれまでの活動でプロセス安全に貢献してきた実績と昨年より始めた安全講習についてプレゼンテーションを行い、SCE-Netの今後の取り組みについても解説致します。SCE-Netでは、現在Web会議システムの導入を検討中で、将来は東京圏以外のメンバーも活動に関与出来る様にしていきたいと考えています。SCE-Netに興味のある方は、是非ご連絡下さい。
2017年7月16日
私の所属している化学工学会SCE-Net安全研究会では、毎月米国の化学工学会に相当するAIChEの下部組織CCPS(Center for Chemical Process Safety)が発行しているPSB(Process Safety Beacon)の和訳とそのテーマに沿った談話室を作成して広く皆様に活用して頂いています。現在は、これに加えて安全研究会が和訳を始めた2006年4月以前のバックナンバーをメンバーで手分けをして和訳に取り組んでいます。
また、2015年3月に丸善から発行した「事例に学ぶ化学安全」を教本とした安全講習会を9月1日に実施の予定です。化学工学会SCE-Netに対する皆様のご理解とご支援を賜りたいと考えております。宜しくお願い致します。
2017年6月10日
前回は人間の視覚について書きました。今回は嗅覚についてお話したいと思います。東急リバブルのテレビコマーシャルで「象は犬の2倍鼻が利くって知ってた?」というセリフがありましたね。嗅覚は鼻の奥にある嗅覚受容体が空気中の化学物質に反応して脳に信号を送ることによって感知されます。人間はこの嗅覚受容体の遺伝子を396個もっていますが、犬は811個、アフリカゾウは1948個だそうです。この事実を元に例のセリフが作られたのでしょうか? しかし、かぎ分けられる化学物質の種類はこの嗅覚受容体が一対一で反応するのではなく、複数の受容体が同時に反応することがあるので、単純には数えられません。ここで、私が注目しているのは、嗅盲の存在です。すべての人間が同じ物質の匂いを同じように感じているのではないのです。これだけ多くの遺伝子があると働いていない遺伝子がかなり出てきます。猛毒のシアン化水素は独特なアーモンド臭がするとされていますが、実に10人に一人がこの匂いに対して嗅盲だそうです。プラント内で危険な物質の匂いを感知できなければ、漏洩の認知が遅れるおそれもあります。運転員などプラント内に常駐して作業をする人の場合、そこで扱う危険な化学物質に対して嗅盲でないことを確認することも大切だと思います。
2017年5月 4日
人の行動が成功するには、認知・判断・伝達・実行の全てが成功した場合であることは今までに何度も述べてきました。認知の部分でのエラーが少なくないことは誰もが感じていることだと思います。私たちは見えている物は全て存在し、見えていない物は存在しないと感じてしまいます。しかし、私たちは存在する物が全て見えているとは限りません。それは私たちの脳と深い関係があります。下の図の中央部に白い正三角形が見えるでしょう。しかし、この絵に描かれているのは3つのパックマンが中央に向けて口を開けているだけです。つまり、私たちには存在しないものが見えている訳です。私たちはプラントの設計をする際に、この様な錯視が事故の原因とならない様にも注意しなければなりません。しかし、その前にどの様な錯視が存在するかを知ることが先ですね。
2017年4月 7日
北朝鮮のミサイル発射や米国の巡航ミサイルによるシリア軍攻撃などと、不穏な動きが出ています。当研究所は主に化学プロセスを扱うプラントを対象として、その安全向上を目指しているものですが、人の命の大切さに変わりはありません。これらは、認知・判断・伝達・実行という観点から見れば、敵対する者に対しては、その命を奪っても構わないという「判断」で行われているものです。そして、それは「殺さなければ、殺される」という認識によるものと思われます。これと比べると化学プラントの安全はずっと簡単だと思います。なぜなら、「誰も怪我をしたり、死んで欲しくない」ということが、共通の認識になっているからです。
2017年3月 16日
3月8日の化学工学会の年会も無事に終了しました。SCE・Netの「安全指導者育成のための講習会」に興味を持って足を止めて頂いた方たちには心から御礼申し上げます。この講習会は、とかく一方通行になりがちな安全教育を何とかして双方向のコミュニケーションを取ることができ、受講者の身に付くものにしたいという現場の安全教育者の方たちの希望に応えるためにデザインされたものです。そのためにSCE・Netが提唱しているのが、現場の技術者を安全教育者として育てることです。既に一部の大手化学会社では、安全教育のファシリテーターを育てることに動き始めています。今年は9月1日にこの講習会を実施する予定です。この講習会を通じて、少しでも現場の安全に寄与することが出来ればと考えております。
2017年2月 28日
化学工学会の年会が今年も3月6日から8日にかけて、芝浦工業大学の豊洲キャンパスで行われます。
8日のポスターセッションでは私もSCE・Netのメンバーとして「安全教育を実施する人のための講習会」と題して発表を行います。従来は安全教育に直接携わって来なかったエンジニアなども教育する側に立って安全教育に係わることで、社内のコミュニケーションが密になり、安全文化構築の一助になることに賛同して頂ければと思っております。昨年、SCE・Netが化学工学会関東支部と協力して実施した安全講習はその観点で実施したもので、「事例に学ぶ化学プロセス安全」を教本として、多くの教育手法を提供することが出来ました。興味のある方は、是非8日の16:00-17:20 Y352 会場に足をお運びください。
2017年2月 3日
今日は節分で、スーパーやコンビニでは恵方巻を食べる日だとして宣伝していますが、以前は関東にはない習慣でした。これもバレンタインデーと同様、小売業者が意図的にはやらせているものです。そう分かってはいても、皆が節分に恵方巻を食べているのだと思うと、食べたくなってしまうのは、集団心理です。安全も皆が安全に作業をしている職場では、新人も自ずと安全に作業をしようとするものです。一方、皆が安全に関心を示さない職場では、新人に安全意識は芽生えません。一口に職場の安全文化と呼ばれていますが、皆が安全に関心を持って行動を行う様になるためには地道な努力が欠かせません。自分や職場の仲間が怪我をしたり、死んでも構わないと思っている人などいません。つい忘れてしまう安全を忘れない様にするには、お互いのコミュニケーションが大切です。相手の身を案じて声掛けをしていきましょう。
2017年1月 9日
明けましておめでとうございます。いよいよ、ドナルド・トランプ氏の大統領就任が近づいてきました。昨今、度々テレビで米国の白人労働者が職を失い、苦しい生活を余儀なくさせられている映像が流れています。堅実な製造業で働く人達は職を失い、何も生産しないウォールストリートの人達が巨万の富を手にする光景を見ていると私が留学していた1980年頃とは変わってしまったと感じざるを得ません。多くの産業がメキシコなど関税の掛らない国に工場を移してしまったことも一因でしょう。白人労働者の多くがトランプ氏に期待したのもやむを得ないと思います。大切なのはこれからです。本当に人々の暮らしを豊かに出来るのは金融ではなく、製造業です。トランプ氏のやり方には問題があると思いますが、米国が製造業に力を入れることは決して悪いことではないと思います。その時、いかに安全な工場を建設し、安全に生産し、安全を維持していくのか。プロセス産業ではPSM(Process Safety Management)が大いに役に立つことと期待しています。
2016年12月 24日
新入社員を自殺に追い込んだとして大手広告会社が問題となっています。報道では会社の体制、労働時間などに焦点が当てられている様ですが、私は社内に「いじめ」があっただろうと想像しています。上司を含め、周囲の人達はそれに気付かなかったとは考えられません。「こころの科学184」に和久田学氏の「いじめ加害者のシンキング・エラー」という記事があります。パワーハラスメントという言葉もありますが、「いじめ」はパワーを持った者からのみとは限りません。もし、あの新入社員に心から寄り添ってくれる人が一人でもいたら自殺はしなかったのではないでしょうか。見て見ぬふりをすることを含めて「いじめ」に加担するというエラー行動は「判断」のシンキング・エラーです。和久田氏の「いじめは被害者のみでなく、加害者の心も傷つける」という観点は重要です。安全管理の究極の目標は、そこで働く全ての人が安全に安心して活躍できる環境を提供することです。安全教育に「いじめ」の問題を取り上げることも考えて良いでしょう。
2016年12月 2日
今朝の新聞の第一面に「カジノ法案 衆院委可決へ」の見出しが目につきました。観光立国を目指す政府がカジノを作ることで海外の客を呼び込み、お金を落として貰うことを狙った政策でしょう。この政策の是非は別として、人はなぜカジノに足を運ぶのでしょうか? 冷静に考えれば、カジノでは胴元は必ず儲かる仕組みとなっているので、ギャンブルをする側の人たちに入るお金の期待値は「マイナスとなる」ことが明白です。しかし、「自分だけは特別だ」「自分は賭け事に長けている」といった妄想を持つとギャンブルの罠に掛かると考えられます。このような妄想は作業での安全認識でも時折見られます。「自分はベテランだから大丈夫だ」などの言葉が聞かれたら要注意です。安全教育で何が危険かを教えても判断を誤ってしまう可能性が高いからです。安全教育では知識を教えるだけではなく、正しく判断できるようにすることが大切です。
2016年11月10日
昨日、アメリカの次期大統領にドナルド・トランプ氏が選ばれました。まずは、トランプ氏には「おめでとう」と申し上げておきましょう。注目すべきことは彼の選挙戦中の言動です。イスラム教徒、少数民族、女性に対して差別的な言葉を吐いていたにも拘わらず、多くのアメリカ国民が彼を選んだということです。私はこれは本能が理性に勝ったものと考えています。冷静に考えれば、差別的な言動は政治家として相応しくないことは明白でしょう。国家、いや世界のリーダーたるアメリカ大統領に差別される側の人にしてみれば、とんでもない人物だと言えます。しかし、投票した人たちの多くが彼を選んだのは、建前は「差別は良くない」だが、内心のどこかに彼に共感するものを持っていたのでしょう。今後、トランプ氏が理性に基づいた政治を行う否かは現時点では不明です。しかし、安全という観点からは本能に流される政治は危険だと言わざるを得ません。世界のリーダーに相応しい行動を期待したいと思います。
2016年10月27日
最近は日本でも米国のPSM(Process Safety Management)に関心を持つ人が増えている様です。特に大きな企業では豊富な人材と経済力で安全に力を入れることが可能であり、企業のトップが安全を重視している場合はかなり実力を付けてきていると思われます。PSMを実施していれば事故が起こらないというわけではありませんが、安全を管理するシステムとしてストラクチャーが出来ており、PSMは大いに参考にすべきものでしょう。化学工学会SCE・Net安全研究会ではAIChE(米国の化学工学会)の下部組織CCPS(The Center for Chemical Process Safety)がPSB(The Process Safety Beacon)を毎月和訳し、そのテーマについてメンバーが話し合ったことを「安全談話室」としてまとめて月刊誌「化学装置」やSCE・Netのホームページに掲載しています。11月号はPSB発行15周年でPSBが現場の安全に役立つことを目指していることなどが掲載される予定です。これらの資料は手軽に入手できますので、化学に限らず多くの装置産業の現場の方たちに役立ててほしいと願っております。
2016年9月30日
これまで人の行動が成功するには、「認知」「判断」「伝達」「実行」の全てが成功裏に終わることだと説明して参りました。これらのほとんどが脳の活動と深く係っています。脳に関する本などから得た知識では、じっくりと考える場合は前頭前野と言われる脳の前の部分、おでこの上あたりの脳が活発に活動しているようです。それに対して飛来するものを感じて瞼を閉じるのは脳幹による反射で、一々考えて目をつぶっている訳ではありません。また、人の感情は中脳が司っている様です。つまり、人間の行動は全てが大脳による「判断」によるものではないということです。私は安全教育の難しさはここにあると考えています。つまり、頭で分かっていても、その通りに行動できるとは限らないということです。訓練には、知識としてだけでなく、体で覚える部分もあります。訓練という経験を通じて、自転車を乗りこなせるようになる様に、安全教育でも体感できる部分が重要だと考えています。
2016年8月19日
「実験医学」2016 vol.34 No.11 (2016年7月号)は「記憶 その瞬間に脳で何がおきているのか?」の特集をしており、「記憶」に興味があったので購入してみました。その中でも久恒辰博氏の「記憶能力が低下するメカニズムとは何か?」ではアルツハイマー病や高齢者研究にも言及しており、イミダゾールジペプチドを1日1グラムを摂取することで記憶機能が優位に改善したとあります。人の行動を「認知」「判断」「伝達」「実行」に分類した場合、「記憶」は「伝達」即ち正しく判断したことを「実行」に繋げるための重要な要素です。イミダゾールジペプチドは脳内炎症を抑えることで記憶機能低下を改善する様です。イミダゾールジペプチドは疲労に効くサプリとしても販売されていますが、鶏胸肉に多く含まれているとのことです。これからは積極的に鶏肉を摂取したいと考えております。
2016年7月23日
任天堂のポケモンGoというゲームが話題になっています。先行して公開された欧米ではゲームをしながら歩いていた人が交通事故に遭ったり、崖から転落したりと、早速様々な事故が報告されています。日本でも危なっかしい人がいたという報道もありました。現実の世界にゲームが入り込んだようなゲームソフトでプレーしている人が自分の状況を正しく認知出来ない環境を作り出しているのだと思います。人間の冷静な判断が脳の前頭前野で行われていることが分かっていますが、そこは同時に多くのことを処理するのが苦手です。それは工場で操作しているオペレータにとっても同じことで、状況の正しい認知の為には、外乱を減らす工夫が大切だと考えています。
2016年6月25日
イギリスが国民投票の結果、EUから離脱することになりました。アメリカではトランプ氏が大統領候補として多くの国民の支持を受けている様です。何れも、全体の利益よりも自分たちの利益を優先する判断に基づくものと感じられますが、実は人間は誰でもここに迷いがあるのです。全体の利益を考える場合、人の脳では前頭前野と呼ばれる額の辺りの大脳が冷静な判断を行います。これに対して、脳幹と呼ばれる脳の一番深い部分は自己を防衛する本能を司っていて、人は冷静な判断が出来ないと脳幹に判断を委ねてしまうのです。時に本能は生命体を守るために反射的な行動をさせてくれますが、複雑な状況判断には弱く詐欺師に付け込まれるなどの隙を作ります。安全でも、無意識に出た行動が大きな事故の原因になっていることが度々あります。如何に冷静な判断のできる状態を維持することが大切か、日常生活でも注意したいものです。さて、日本国民は次の参議院選挙で前頭前野を働かせることができるのか、注意深く見守りたいと思います。
2016年6月5日
北海道の山林で行方不明となった少年が無事に発見されたニュースで、これまで発見できなかったのは少年のいた場所が捜索の想定外の場所であった為と報道されました。この「想定外」という言葉は、福島第一原発の事故以来、散々耳にした言葉です。ジャーナリストの柳田邦男氏もこの言葉の危険性について本を出されていますが、私もその通りだと感じています。「想定外だから仕方がない」と片付けてしまうと、何の教訓も得られません。本当に大切なことは、なぜ捜索の対象に入れなかったのかを分析して、今後同様な事故が発生した場合に備えて役立てることです。このケースでは、少年が道路を徒歩で移動することを除外して、遺体を探す体制でいたのではないかと思われます。捜索隊のあり方を再考する良い機会として、事故を分析して、経験を生かして貰いたいと思います。
2016年4月19日
昨年の9月末から経済産業省のプロジェクト「平成27年度石油精製業保安対策事業 高圧ガスの危険性評価のための調査研究 報告書」を受託した国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)に協力して、安全研究会のメンバーが中心となって「現場に役立つチェックポイント」の抽出作業をお手伝いして参りました。この度、経産省のホームページにその報告書が掲載されました。http://www.meti.go.jp/topic/data/e90622aj.htmlの「平成27年度分の掲載一覧」をクリックし、開いたpdfファイルの「管理番号000079」の行の右端のURLをクリックすると報告書を見ることができます。チェックポイント集を有効に活用できるシステムは7月頃に公表されるようです。興味のある方は、是非ご覧ください。
2016年3月19日
昨日、化学工学会SCE・Netの安全研究会で新しく入会された方にリスクマネージメントのプレゼンテーションをして頂きました。その中で興味深かった点は、欧米人は左脳で論理を重んじた考え方をするのに対して日本人は右脳でビジュアルな考え方をするというものでした。安全に対する取り組みとして、日本の企業が現場の注意力や精神論に頼る傾向があることは、右脳に依存していることによるそうです。一方、欧米人は論理的にシステムを構築するのは得意だが、現場がシステムの要求に応えきれていないために、事故が起きている様に思われます。最終的に安全管理システムを上手に運用する為には、右脳、左脳の両方を使うことが必要ということで、意見が一致しました。さて、我々日本人が、もっと右脳を活性化するには、どうするべきか? 論理的思考に慣れ親しむためにも、事故分析でFTAを使ってみては、如何でしょうか?
2016年1月31日
軽井沢でスキーバスが転落して、15名の方たちが命を落とされて半月が過ぎました。死亡されたのは乗務員2名を除くと全て学生でした。この事故で印象的だったことは死亡された学生の遺族の方が仰った「過度の利益追求、安全の軽視などの社会問題」が原因だったのではないかとの指摘でした。私も同感です。今の日本は物質的には豊かになっているのでしょうが、決して心が豊かとは言えないと思います。仕事に見合う適正な報酬を得ることは、その人の暮らしを支える大切な収入ですが、過度に利益追求をすればどこかに歪が出てしまうでしょう。バス会社やツアー会社が安全コストを削って低価格を実現したのであれば、許されないことです。この事故を戒めとして、多くの会社経営者が会社を社会を豊かにするのための、そして人々の心を豊かにするためのゴーイングコンサーンとして見直して頂くことを願っています。
2016年1月3日
新年、明けましておめでとうございます。
昨年は化学工学会SCE-Netの化学工学入門講座で蒸留を担当したことを皮切りに、埼玉工業大学後期の化学工学の授業を担当させて頂いたり、産総研のプロジェクトのお手伝いをさせて頂いたりしました。これらは今年も引き続きさせて頂きたいと考えております。
昨年を振り返ると、IS(イスラム国)が世界の安全に対して刃を突き付けた印象が強くあります。彼らの行動は私たちの常識から大きく外れており、決して許される行動ではないと思いますが、私たちも彼らをそこまで追い詰めてしまった責任があるのではないかと考えています。今の世の中は、全ての価値をお金で評価してしまっていて、人の心の価値を忘れてしまっているかの様です。貧困にあえぐ人たちが努力しても報われない社会では、人の心は荒んでしまうと思います。児童の貧困が問題となっているこの時代は決して豊かな時代とは言えないでしょう。工場の安全を願う根底に「働く仲間に怪我をさせたくない、死なせたくない」ということがある様に、私たちは社会の安全を「人の心に寄り添う」ことで目指す必要があると感じています。今年は「人の心」を大切に行動したいと考えております。
2015年12月15日
パリ同時多発テロが起きてから1か月が経過しました。平和に暮らしている市民の安全を脅かす卑劣な行為だと言ってよいでしょう。欧米諸国はロシアも含めてイスラム国への空爆を強化し、おそらくはテロの犠牲者以上の死者が出ていると想像されます。それは憎しみを再生産して、次のテロの口実となると心配する人も少なくありません。安全が大切だと言うのは、それが人の心を大切にすることだからです。自分だけ安全であればよいというのではなく、他人の安全も大切です。私たちは知らぬ間に他人の心を傷つけて、恨みを買っているのかもしれません。以前、"Managing from Heart"という本を読んで思ったのですが、私たちはそれぞれが心を持った人間であり、それに気遣うことのできる社会こそが安全の基本だということです。
2015年11月11日
今朝、テレビでMRJ初飛行の映像を見る機会がありました。日本は戦後飛行機の製造を禁止され、50年程前にはYS11というターボプロップエンジン機を製造したものの、採算が取れずに撤退したと聞きます。そして今回、ジェット旅客機の試験飛行が長いブランクの後に行われました。つまり、日本は長い間自作の飛行機を飛ばしたことがなかったということです。海外で勉強や経験を積んだ人もいたかもしれませんが、多くの関係者にとっては初めてのことだったと想像されます。つまり、乏しい経験の中でスタッフ達は安全に飛行機を飛ばして見せたのです。この背後にどれほど多くの人たちが安全に細心の注意を払って仕事をしてきたものだろうかと思い、感動した瞬間でした。
2015年10月25日
このところ、杭打工事不良のためにマンションが傾いたという事件が盛んに報道されています。杭が強固な地盤に到達していなければ、大きな問題が発生することを担当者は認識していなかったのでしょうか? 杭打ち工事のプロとしての知識の問題か、それとも知っていながら敢えて手抜きをしたのでしょうか? もし、充分な知識を持っていたら、手抜き工事がいずれはばれてしまうと予測できなかったのでしょうか? 今、その担当者はどの様な気持ちで事態を見守っているのでしょうか? 多くの工事現場を見てきた一人として思うことは、今後この様な事件が起こらず、惨めな工事担当者が出ないことを祈ります。そのためにも、建設工事に関わる組織は安全管理を根本から見直すことが求められていると思います。安全は管理者の責任です。
2015年10月10日
今年は北海道でも台風による被害が発生しています。10月4日にNHKで放送されたメガディザスターを見ていても、日本列島がこれから自然災害を受ける可能性は高まっている様に感じられます。安全は化学プロセスだけに必要なものではありません。自分の住んでいる環境を再度確認してみる必要を感じて考えてみました。私の住む場所は高台で、マンション購入時にはボーリングデータも閲覧して地盤が強固であるかを確認しました。その為、水害の可能性はかなり低く、地震にもある程度の強さを持っていると判断しています。あの3.11東日本大震災の際も大きな被害を受けずに済みました。一方、周辺に高いビルなどが殆どなく、竜巻の直撃を受けると被害を免れないと思います。確率はそれほど高くはないと思いますが、可能性はゼロではありません。いざという時には、我が家の場合は玄関に逃げるのが最も安全だと考え、妻と話し合っています。皆さんも一度自分の住まいの安全性を評価してみては如何でしょうか?
2015年9月11日
台風18号の影響で関東、東北に激しい雨が降り続き、茨城県常総市などで堤防が決壊して大きな被害を出しています。被害者の方たちにはお気の毒に思いますが、多くの方たちが堤防決壊を想像だにしていなかったのは、残念だったと感じています。自分の住んでいる場所がどの様なリスクを抱えているかを考えておくことは、化学プラント建設前にプロセスハザード分析をするのと同様に大切なことです。化学プラントのための知恵であるPSM(Process Safety Management)をより多くの方たちが知って、個人の生活の役に立てることも大切だと痛感した事態でした。PSMでは、リスクを分析したら、その対策を講ずることを求めています。そして、万一そのハザードが牙を剥いたらどの様に行動するべきかも考えておき、場合によっては行動の訓練を行うことも奨励しています。自分や家族にとって何がリスクになり得るかを一度真剣に考えてみませんか? 堤防などの防御施設は機能を喪失する可能性をゼロにすることはできません。形あるものはいつか必ず壊れるものです。
2015年8月24日
相模原の米軍基地での爆発事故に続いて、日鉄住金鋼管川崎で大規模な火災事故が発生しました。いずれの事故も死傷者を出していないとのことです。米軍基地での火災では、保管品に水を掛けると危険な物質があるかもしれないので放水が出来ない状態だとの報道がありました。まず、火災を引き起こさないことが重要ですが、万一起きてしまったらどうするべきかが分かっていたから人身事故に発展しなかったと考えるべきでしょう。それに引き換え、天津の爆発事故では水を掛けてはいけない物質に水を掛けて爆発を誘発したような報道がされています。PSMの一項目、Emergency Responce (緊急時対応)が実施されていたか、いなかったかの違いと思われます。
2015年8月19日
中国の天津で発生した爆発事故では多くの犠牲者を出しています。これだけ大きな爆発事故だと最初の火災発生時の物的証拠が破壊されて本当の原因分析を行うことが困難だろうと想像しています。今回の事故を考えると何故これほどの爆発を起こすだけの化学物質が保管されていたのかが気になる点です。中国政府は責任者の法令違反などを理由に逮捕したと聞きますが、誰か個人に責任を負わせて一件落着としたなら、同様な事故は再発防止できません。PSM(Process Safety Management)のCA(Consequence Analysis) を実施して、LOPA(Layer of Protection Analysis)に基づく対策を講じていれば起こらなかった事故だということは、福島第一原発の事故のケースと同様です。日本もPSMに真剣に取り組み必要があると再確認させられた事故でした。
2015年7月31日
7月28日に調布飛行場を離陸した小型機が墜落した事故では、色々なことが判ってきました。最初に私が考えたことは、この事故をFTAで展開することで何が出て来るかでした。飛行機は勝手に飛んだりしませんので、「飛行機が墜落した」は「操縦士が飛行機を墜落させた」という人の行動のエラーとしてとらえることが出来ます。付近のサッカーグラウンドからの映像と証言から、操縦士は意図したとおりに操縦できなかった、即ち「実行」段階のエラーだったと考えられます。そして、それは「操縦していた飛行機が故障していたから」と説明できます。ここで、考える必要があるのは「操縦していた飛行機が故障した」のか「故障した飛行機を離陸させた」の二つの選択肢が現れることです。飛行機は空中を飛んでいるだけで、高い運動エネルギーと位置エネルギーを持つことになり、リスクレベルが上がりますが、通常は事故になるレベルにならない様にコントロールされています。また、飛行機は飛んでいなければ故障していても事故にはなりません。二つのリスクを上げる要因が重なったことで、事故に繋がるリスクレベルに上がったと考えます。ここで、重要なことは二つの要因のどちらが先だったのかにより、事故調査の方向性が大きく変わることです。これから先、事故調査がどの様に進むのか、慎重に見て行きたいと思います。
2015年7月25日
先日、2005年10月6日に米国テキサス州 Point Comfort の Formosa Plastics Corporation で発生した爆発火災事故についてCSB(Chemical Safety Board)の作成したCASE STUDYをレビューしました。事故の最終報告書ではないので、調査の途中のものかと思いますが、事故の引き金を引いてしまったフォークリフトの運転者が何故その様なことをしてしまったかの記述が見当たりません。これは、自分でこの事故のFTAを作成してみて気付いたことです。他にも、怪我をした従業員からの情報が無い様に思いました。文章だけを見ていると完璧に思えるようなレポートもFTAを作成してみることで、何が不足しているかが判ると言いますが、これは正にその典型だと感じました。皆さんにも事故やヒヤリハットを分析する際に、是非FTAを活用して頂きたいと感じた瞬間でした。
2015年6月24日
先日、NHKで放送された映画「クライマーズハイ」をビデオで見ました。日航のジャンボ機が御巣鷹山に墜落した事故を背景にしたフィクションですが、驚いたのはこの映画の制作時、2008年に未だ真の原因究明はされていないとの字幕でした。私たちは報道から得た情報、即ち圧力隔壁の破損が原因だと信じていたのではないでしょうか? 一旦、事故が発生してしまうと全ては過去の出来事になります。そして我々が原因を究明しようとしても証明する術がないことがあります。FTAでは全ての事実が明らかになれば、ORが無くなるのですが、事実が分からない場合はORを残して、あらゆる可能性に対処する必要があります。この様に大きな事故の場合、証拠品の損壊程度が著しく、原因究明が困難になる可能性が高くなります。人が犠牲になる前に、事故の芽を摘むことが大切です。そのためには、小さな出来事でも事故に繋がる可能性があったら、分析して対策を講じることが必要です。
2015年6月8日
化学工学会SCE・Netの安全研究会では、毎月AIChE(米国の化学工学会)のCCPS(Center for Chemical Process SAfety)が発行しているPSB(Process Safety Beacon)を翻訳して、CCPSに和訳を提供しています。また、PSBの話題を元に化学会社のOBを中心としたメンバーが経験や知見を述べて、「談話室」として「化学装置誌」に掲載しています。化学プラントの運転や保守に関わる人はもちろん、その他の製造現場で働いている多くの方たちに安全について考える良いきっかけとなっています。これからも、多くの方々に活用して頂ければと思います。「事例に学ぶ化学プロセス安全」は2006年4月号から2014年1月号のPSBをまとめた本で、現場での安全教育に利用しやすい様に工夫されています。
2015年5月20日
18日の日刊工業新聞にAIChE CCPS と化学工学会SCE-Net安全研究会が共著で発行した「事例に学ぶ化学プロセス安全」が紹介されました。
残念なことに日米とも「化学工学会」を間違って「化学工業会」と紹介されていました。
しかし、この本の内容が化学プロセスを扱っている皆さんや安全管理をされている方たちにとって役立つことに変わりありません。
多くの方たちの目に止まり、現場の安全向上に役立てて頂けることを願っております。
2015年 5月12日
人の行動が成功するには「認知」「判断」「伝達」「実行」の全てに成功する必要があります。最初の「認知」に成功しなければ、後の「判断」「伝達」「実行」に至る前にエラーとなってしまいます。最近、認知感覚の一つ「嗅覚」について調べてみました。人は約400種類の嗅覚受容体遺伝子を持っているそうです。問題は遺伝的に嗅覚に障害のある場合があるということです。私たちは匂いでガス漏れに気付くように、匂いで危険を察知することが出来ますが、それに気付かなければ危険にさらされることになります。もし、化学プラントなどで危険な物質の漏洩に気付くのが遅れれば、対処に遅れをとることになります。色盲は三種類の色の識別だけの問題ですが、嗅盲の種類は多く、また検査も行われていないのが実態です。猛毒として知られているシアン化水素はアーモンド臭がするとされていますが、10人に一人はその匂いを感じることが出来ないそうです。危険な化学物質を扱うプラントではオペレータの採用時に、特定の匂いに対する嗅盲検査をするべきではないかと考えます。
2015年 4月16日
人の行動は「認知」「判断」「伝達」「実行」が全て成功した時に、成功行動となることは当研究所が常々お伝えしていることですが、「認知」から「伝達」まで、特に「判断」は脳の働きによることが大です。以前より脳の働きが判断に与える影響について興味を持って研究していますが、このところ「マインドフルネス」という言葉が盛んに聞かれるようになっています。昨日も、NHKの朝の番組で「ぼんやりパワー」として「マインドフルネス」の紹介をしていました。「マインドフルネス」が安全向上に役立つ可能性があるのではないかと思っています。
2015年 3月20日
「事例に学ぶ 化学プロセス安全 ――Beaconの教訓と事故防止の知恵」が丸善出版より刊行されました。
この本は化学工学会SCE・Netの安全研究会のメンバーがAIChE CCPSが発行しているPSB(Process Safety
Beacon)をベースに日本の工場の現場で働く方たちの安全向上に役立てることを目的として記したものです。私もその執筆者に加えさせて頂きました。世界で起きている様々な事故事例をベースに事故の概要、要因、事故防止対策、類似した国内事例などを紹介しています。現場の皆さんが自分の職場の安全を向上させるために役立つ情報が豊富に提供されています。是非、活用して頂きたいと思います。
2015年 3月 9日
このところ、13歳の少年が18歳の少年に殺害された事件が大きく報道されています。また、少し前には大学生が老婆を「人を殺してみたかった」という理由で殺害した報道もありました。ここで、気になるのは加害者は社会のルールの中でエラー行動をしたと言えますが、それは認知、伝達、実行のエラーではなく、判断のエラーだったことです。少年や少女が社会秩序に反した判断をしてしまった背景に何があるのか、正しい判断基準を持たせることのできなかった我々大人にどの様な問題があるのか。これらは、イスラム国に心を寄せてしまう人たちにも通じる様な気がしています。私たちは「心の豊かさ」を何処かに置き去りにしてしまったのではないでしょうか。
2015年 2月 1日
今朝、イスラム国に捕らわれていた後藤健二さんが殺害された様であるとの報道がありました。本当であれば、大変悲しいことです。そして、彼らがこれから日本人も標的にするとのメッセージを伝えてきたことも気になります。イスラム国の様な組織を産んでしまったことは人類の最大の失敗の一つかも知れません。平和で安全な社会を作るには、心の豊かさを追求する必要がある様に感じています。それは、決して暴力で応酬することではないと思います。お金の豊かさは他人に渡せば自分の持ち分が減ってしまいますが、心の豊かさは他人に分かつことで更に増すことでしょう。
2015年 1月 20日
安全な社会を目指す当研究所として、最近のイスラム過激派と称する人たちの引き起こした事件、また、それに対抗しようとする勢力とのぶつかり合いには心を痛めております。
なぜイスラム過激派の人たちはテロを引き起こすのか? 一部、強要されてテロを起こしたり、未遂に終わった例はあるようですが、多くの場合、彼らは自爆を前提として行為に及んでいると考えられます。即ち、彼らはこの行為を行うことで自らを死に追いやることを知っていて、それでも実行しようと判断したことになります。正しい判断の条件として、私は「意思」「知識」「冷静」の三つが必要と考えていますが、彼らには「安全を大切にしよう」という意思ではなく、「憎しみ」が支配しているのではないかと思います。もしそうであれば、私たちは彼らの「憎しみ」がどこから生じたものであるかを突き止めて、それに対する処置を講ずる必要があるでしょう。もしかすると、私たちは資本主義社会にどっぷりと浸かって、「神」の代わりに「金」を崇拝する様になってしまったのかも知れません。彼らの目に、我々が「金を崇拝する邪悪な宗教に染まった連中」と映っていると考えると説明がつくように思われます。
2015年 1月 1日
新年、あけましておめでとうございます。
昨年は、当研究所の設立、産業環境管理協会主催のリフレッシュ研修でのFTA講習、工業通信の「化学装置」への寄稿など、化学工学会他、多くの皆様のご支援を頂いて順調な一年でした。
今年は、4月に日本テクノセンターで信頼性と安全管理のためのFTA、6月に化学工学会の化学工学基礎講座で蒸留の講義、9月以降は埼玉工業大学で化学工学の授業を担当させて頂くことが決まっており、また、4月以降は化学工学会SCE・Net安全研究会の幹事を務めさせて頂く予定です。昨年以上に忙しい年になると予感しております。
本年も皆様のご指導、ご鞭撻を宜しくお願い致します。
2014年 12月 1日
人の行動エラーは「認知」「判断」「伝達」「実行」のどこかで失敗することで発生すると説明しています。しかし、最近の研究で時として人は大脳での「判断」を省略して行動することに気付きました。目は確かに状況を見ているが、大脳で「さて、どうしよう?」などとは考えずに行動することです。私たちは人ごみを歩いていても殆ど考えずに他の人の動線を予測して自分の動線を決めています。たまに考えすぎて、正面から来る人と同じ側に避けようとして互いに動けなくなります。「さて、この人はどちらに避けるだろうか?」と大脳で考えているうちに時間が無くなってしまうのです。この様な「判断」は通常は大脳では無く、脳幹の部分で行っている様です。大変興味深い分野だと思います。
2014年 11月 22日
最近の化学感覚の研究によると、視覚や聴覚と異なり化学感覚である味覚や嗅覚の情報は脳の偏桃体や視床下部など辺縁系にいち早く情報が入るので、情動の変化や本能的な行動を起こしやすいとのことです。即ち、大脳でじっくりと考える暇なく行動に移る可能性が高いということです。女性が付ける香水の香りに、つい心が揺らぐ男性の心は、この情動によるものだと説明できそうです。その意味で、魅力的な男性の気を引く目的で香水を利用したり、手料理でもてなす女性の行動は理に適った行動だと言えるでしょう。
2014年 11月 2日
人が行動でエラーを起こしてしまった時、私はFTAでは「認知」「判断」「伝達」「実行」のどの場面で失敗してしまったかを分析することを推奨しています。人は異常に気付いた時に、必ずしも自分の知識や意識に基づいて「判断」していないことがあります。それはパニック状態に陥ったケースなどが相当します。振り込め詐欺の犯人はこの人間の弱点を上手く利用していると言えます。最近の脳科学の研究によると大脳の前頭前野における「判断」思考をバイパスして「直感」による判断をすることがあるとのことです。ヒューマンエラーの一言で代表されてきたことに科学のメスが入り始めた様です。大変、興味深いことだと感じています。
2014年 10月 20日
平成26年度 産業環境管理協会主催の公害防止管理者等リフレッシュ研修で講師を担当させて頂き、
札幌、大宮、長野、四日市、岡山の各会場でFTAの紹介をさせて頂きました。
これからも事故分析におけるFTAの利用を広めるために活動を続けてまいります。
尚、(株)工業通信社の「化学装置」12月号に「製油所(化学工場)での安全確保・実現のためのFTA利用術」と題して寄稿を予定しております。主として保全担当者を対象に事故が起こる前のFTA活用について解説いたします。
2014年 10月 2日
9月30日よりYahooメールのトラブルがらみで、当研究所のメールが受信できなくなっていましたが、別のメールシステムを使うことで、受信できるようになりました。
御用の方は「研究所概要」に記載のアドレスまたは当ホームページの「お問い合わせ」をご利用ください。
2014年 9月 21日
産業環境管理協会殿主催の「平成26年度 公害防止管理者等リフレッシュ研修」でFTAの解説と演習を担当させて頂いています。これまで、札幌・大宮・長野で研修を行いました。来月は四日市と岡山での研修でFTAの話をさせて頂くことになっています。受講者の方たちは既に公害防止管理者の資格を持っておられる方たちで、インテリジェンスのレベルの高さを感じています。例題解答で私が気付いていなかったアイデアが色々と出てきており、来月の研修も楽しみです。
ところで本日、ホームページの「エラー」に関する解説に含まれる「認知」の機能である「五感」に「時間経過の感覚」を追加しました。私たちは「何か変だぞ」と思う時、時間経過の感覚によっている場合が少なくありません。ただ、この感覚によって異常を感知するにはそれなりの経験や訓練を必要とすると考えています。
2014年 9月 7日
昨日、南極越冬隊に参加された方のお話を伺ってきました。美しいオーロラの映像や基地の中で活躍されている隊員の方たちの写真やビデオを見せて頂き、大変興味深いものでした。
南極の動物たちは天敵を知らないために、好奇心で人に近づいてくるそうです。南極では野生動物に5メートル以内に近づいてはならないと云う決まりがあるそうで、気が付いたらすぐそこにペンギンが来ていたりして、気を付けなければならないとのことです。アザラシなども人を警戒しないそうです。
この美しい地球を我々人類が自分たちの欲望を満たすために破壊してしまうことは是非とも避けたいと思いました。広島での土砂災害を含め、世界で発生している多くの自然災害は地球温暖化が原因だと言われています。人間の暴走に対して自然の摂理がバランスを取ろうとしているのではないかと考えさせられます。
今、我々は自然災害の原因に気付いたのですから正しい判断をしなければならない時期に来ています。地球規模で正しく判断してルールを決めて、それを具現化しなければならないのですが、前途多難な様です。
2014年 8月 12日
米国の化学工学会に相当するAIChE(American Institute of Chemical Engineers)が発行する月刊誌CEP(Chemcal Engineering Progress)の7月号に「見えないゴリラ」(Invisible Gorilla)というものが出てきます。白いTシャツのチームと黒いTシャツのチームが入り乱れてバスケットボールをパスする画面を見て、白のチームが何回パスをするかを数えて下さい、というビデオです。この中にゴリラの着ぐるみを着た人が入ってくるのですが、半数の人はこれに気付かないとのことです。人間は一つのことをしていると他のことに気付かなくなる傾向があることを証明しています。気付かなければ「認知」できないのですから、「判断」「伝達」「実行」に繋がらないのは当然のことです。何かに集中している場合でも気付くように、プラントではアラームを出したりしますが、何でもアラームを出したのでは効果がなくなります。
興味のある方は"the invisible gorilla"で検索してみてください。
2014年 7月 31日
安全な社会の為にお役に立ちたいと願っている当研究所としては、昨今の脱法ドラッグによる悲惨な事故に心を痛めています。脱法ドラッグを危険ドラッグと呼び換えても、根本的な解決には繋がらないと思います。この様な危険な薬物を売っている人達は、自分が儲かれば他人がどれ程不幸になっても構わないと思っているのでしょう。危険な薬物が世に出る度に、指定薬物にして取り締まる方法が実質的に効果を上げていないことは誰の目にも明らかです。この事実を認知していながら有効な対策を打ち出すことが出来ないのは、この国の判断力に弱点があることを証明しています。早急に抜本的なルール作りが望まれます。一方、我々国民は危険な薬物で身を滅ぼさない様に行動しなければなりません。何が危険な薬物かを認知し、その誘惑に負けない判断、身の回りの人たちにもそれを知らせ、危険薬物を決して使用しないさせないという一連の行動は「認知」「判断」「伝達」「実行」の何処にもエラーを起こさないことで到達できるものです。
2014年 7月 15日
このホームページでは人の行動の失敗を「認知」「判断」「伝達」「実行」のどこかで失敗した時にエラーが起こると説明しています。これは安全管理システムが旨く回っていく時も同じで、この四つのフェーズが全てが成功していることが安全管理システムの成功の証となります。OSHAのPSM(Process Safety Management)も、その14のエレメントが、この四つのフェーズのどれかに当てはまります。
1) Process Safety Information 認知(プロセス安全の情報を知らなければ安全かどうか判断できない)
2) Process Hazard Analysis 判断(プロセスの潜在的危険を分析してどうすべきか判断する)
3) Operating Procedures 伝達(どうすれば安全かを従業員に知らせる手段)
4) Employee Participation 実行(やるべきことが決まっているなら、従業員のやる気次第である)
5) Training 伝達(安全に実行できるスキルを体得させる手段)
6) Contractors 伝達(協力会社に安全管理システムを知らせ、守らせる)
7) Pre-Startup Safety Review 伝達(設計された安全が本当にプラントに適用されたかを確認)
8) Mechanical Integrity 実行(設計された安全が、その機能を維持すること)
9) Hot Work Permit 判断(火気使用作業が事故に繋がらないかを判断)
10) Management of Change 判断(変更が事故の原因とならないかを判断)
11) Incident Investigation 認知(事故の原因を知り、再発防止に繋げる)
12) Emergency Planning and Response 伝達(関係者に緊急時のとるべき行動を知らせる)
13) Compliance Audits 認知(安全管理システムを監査し、弱点を補強する)
14) Trade Secrets 認知(機密事項でも安全に関わる情報は関係者に認知させる必要がある)
もし事故が発生したのであれば、これら14のエレメントの何処かでエラーが発生したと言えるでしょう。
2014年 7月 1日
現在、化学工学会SCE・Net 安全研究会では毎月CCPSのPSBを翻訳して、談話室での会話を公表していますが、今までのPSBをベースに化学工場や石油精製の分野で活躍されている皆さんに役立つような図書を出版しようと活動しています。安全研究会のほぼ全員が分担して主筆し、現在は原稿の査読を行っているところです。
CCPSはCenter for Chemical Process Safety という米国の化学工学会(AIChE: American Institute of Chemical Engineers)のTechnological community に属する組織で、PSM(Process Safety Management) の啓蒙活動の一つとして毎月PSB(Process Safety Beacon)を発行しています。
安全研究会の活動はCCPSが世界に広めようとしているPSMを日本に紹介すると共に、PSBの日本における活用方法の探求という形で議論を重ね、日本の化学業界の安全向上に寄与するものです。企業の安全活動に興味を持たれている方は、是非PSBの翻訳と安全談話室をご覧ください。毎月、株式会社工業通信発行の「化学装置」に掲載されています。
2014年 6月 1日
研究所として最初の外部からの委託業務が一段落して、研究活動に戻りました。
現在、別のクライアントからの依頼を受けて、FTAを環境事故に適用する事例を作成しています。
大規模な環境事故はその殆どがプロセス安全事故だと言えます。有名な事故として、ボパール事故(1984年)、チェルノブイリ原発事故(1986年)、バーゼル事故(1986年)、パイパー・アルファ事故(1988年)、吉林事故(2005年)、などがありますが、何れもプロセス安全が充分に実施されなかった為に発生し、環境に大きな被害をもたらしたものでした。PSM(プロセス安全マネージメント)で扱う事故は「火災」「漏洩」「爆発」が主なものです。「漏洩」はボパール事故の様に有害物質が環境に漏れ出すことで被害を発生させることですが、「火災」「爆発」もその結果として環境に大きな影響を及ぼしています。PSMでは安全システム構築の際に、CA(consequence analysis)と呼ばれる最悪事態の想定を行うことが求められています。そしてLOPA(Layer of protection analysis)によって有効な防護策が用意されているかを検討します。この場合は事故に対するFTAではなく、想定される事態に対するFTAが必要になります。FTAを活用する重要な場面だと言えます。
2014年 5月 13日
自宅オフィスのリフォームや転居、研究所として最初の仕事に追われて、ホームページの更新が疎かになっていました。この間に色々な事故が報道され気になっていました。
国内では、メンテナンスの為に熱交換器のヘッド部分を外したら爆発してしまったという事故もありました。報道によると立っていてはならない場所に立っていて、死亡した方がいらっしゃるとのことでしたが、問題は何故そこに立っていたのかということです。本当に立っていてはならないと知っていたのでしょうか? 知っていたとして、立ち入り禁止の措置はしてあったのでしょうか? ロープなどでエリアを区切っていたのでしょうか? と、色々な疑問が湧いてきます。事故報告書が出されれば、それらのことは書いてあるかもしれませんが、本当のところは被災者しか知らないとも考えられます。被災者が死亡するということは事故調査において重要な証言を失うことです。被災者が何を考え、どのように行動していたのか、真相が判らないまま終わってしまうことは残念です。
海外の事故では、韓国の貨客船の沈没事故が印象的です。こちらも未だ事故調査の過程でしょうが、安全に配慮した行動システムが欠落していたのではないかと思います。この様な事態では、自分で自分の身を守ることも考える必要があります。私の所属していた会社では、ホテルに宿泊する場合は避難経路を確認することを社員に求めていました。団体行動では万一の場合の避難行動を事前に参加者全員に周知しておくことも必要だと感じます。
2014年 2月 25日
明日から自宅のリフォーム工事を行い、事務所を設置する準備を進める予定となっております。2月10日付で正式に開業しましたので、いよいよ「事故分析・コミュニケーション研究所」としての活動を活発に進めて行きたいと考えております。
皆様のご指導、ご鞭撻を頂きたく、お願い申しあげます。
2014年 1月 25日
1月9日に三菱マテリアルの四日市市工場で爆発事故があって既に2週間が経過しました。この事故の報道を見聞きしていると極めて不可解なことが多いと感じられます。長時間、窒素でパージしていたというのに何故爆発したのか? 何が着火原因だったのであろうか? 死亡した5名の作業者たちは皆、立ってはいけない危険な場所に立っていたというのは本当か?
通常、火災発生の条件は「燃えるものの存在」「酸素の存在」「着火源の存在」の三つですが、爆発の場合はこれらに「爆発混合比にあること」と「閉鎖空間であること」の二つが加わります。これら五つが揃わないと爆発は起こらないのですが、FTAに展開する際にはこれら全てが「爆発」の下にANDで繋がる必要があります。
また、爆発しても安全な場所に立っていれば死ななくても良かった筈ですが、爆発の可能性について認知していたのか? していたとして何故危険な場所に立っていたのか? 等の疑問に答えられる様に慎重に事故調査が行われて、その教訓が同業他社も含めて水平展開されることを期待しています。
2013年 12月 28日
最近、粉塵爆発について調査をする機会があり、2003年1月29日に米国ノースカロライナ州キンストンの West Pharmaceutical Services, Inc., と謂う医薬品会社のプラントで発生した事故調査書に目を通しました。この事故で6名が死亡、消防士2名を含み38名以上が負傷したとのことです。
この事故で特徴的なことは、事故の規模もさることながら、事故の可能性について誰も知らなかったということです。CSB(U.S. Chemical Safety and Hazard Investigation Board)の事故報告書によればゴム板に塗布していた粘着防止剤のポリエチレン粉が表面乾燥工程で空中に飛散していたが、目に見えるほどではなかった。しかし、それが長年にわたり天井裏に堆積して、その装置の近傍で発生した小さな粉塵爆発により舞い上がり、大爆発につながったとのことです。
つまり、危険に対する「認知」がなかったということですが、それでは誰も手を打つことができません。誰かが粉塵爆発の危険について知識を持っていて危険性の有無を検討しなければ防止出来ない事故ということです。
CSBによれば粉塵は1mm以上堆積していると爆発する危険が高いそうです。清掃は普段見えない所も気を付けて行う必要がありそうです。
2013年 11月 18日
15日に野田市廃油再生工場「エバークリーン千葉リサイクルセンター」で発生した爆発事故について、「取引先から回収した廃油について社員2名はガソリンの様な臭いに気付いていたが、そのまま回収し、工場の検品担当者もチェック不十分であった」との報道がありました。この事故でも危険な状態を「認知」していながら適切な行動を起こさなかった「不作為のエラー」が見て取れます。また、報道はされていませんが回収を依頼した側も通常の潤滑油の廃油ではないことを知っていた筈です。コミュニケーションにおける「不作為のエラー」があったものと想像されます。誰かが適切な行動を取っていれば防ぐことのできた事故だと考えられます。
2013年 10月 29日
不安全状態の維持が事故の要因の一つになっていることは前回のメッセージでも触れたことですが、不安全状態を是正しなかったという「不作為のエラー」について思いを巡らせると、自分自身がこのエラーに陥っていることに気付かされます。身の回りの不安全状態を是正できていないこともそうですし、地球温暖化の問題もそうです。このままでは悪い結果が待ち受けていると感じながら行動を起こさないのは、「それが近い将来ではないだろう」と甘い考えを持ってしまうからではないでしょうか。
2013年 10月 7日
事故を分析していくと多くの場合、不安全状態の維持が事故の要因の一つになっていることは本ホームページでも説明している通りです。しかし、最近のニュースでは立派な筈の大企業の不祥事が報告されることが少なくありません。関係者の数が多ければ、好ましくない状態の存在に気が付いていた人は多い筈だと思います。また、社員や関係会社の人たちには好ましくない状態を是正するべきだと上位の人に進言した人もいたかもしれません。しかし、それに耳を貸す経営者がいなかったのか、意見が途中で抹殺されたのか、事故が起きたり報道されて初めて対応するのでは情けないことだと思います。組織として真剣に取り組んでいないと言われても仕方がありません。
2013年 9月 20日
書店でたまたま松元雅和氏の「平和主義とは何か」という本に出会いました。絶対平和主義、平和優先主義、義務論、帰結主義、正戦論、現実主義、人道介入主義、それぞれの立場で戦争と平和についての考察を加えた内容で、日頃、平和論について深く考えることのなかった小生には自分の考えを整理する上で大変役に立つ内容でした。我々国民はいずれ憲法改正について自らの考えを求められるかもしれません。その時に、一時の感情に流されることなく冷静に判断できることが、この国のエラー防止に役立つに相違ありません。
2013年 9月 7日
今週は日本列島を集中豪雨や竜巻が襲い多くの被害が発生しました。事故分析では一般に天候に係わることは追及しないものです。しかし今回は地球温暖化による海水温度の上昇が異常気象の原因と言われています。この因果関係が正しいとすれば、地球温暖化が危険な状態の維持を意味するもので、これを阻止することが我々人類の責務ということになります。各国が判断の基準を損得に置いていてはコンセンサスを得ることは困難だと感じています。
2013年 8月 26日
このところ福島第一原発での汚染水漏洩事故に関する報道が盛んになっています。当初、120リットルの漏洩と言っていたのが突然300立方メートルになったと言って騒いでいますが、一番の問題は「点検はしていたけど、記録は取っていなかった」と言う担当者の説明です。これでは汚染水の漏洩は管理していなかったことになります。このような状態が続いていたことは極めて残念なことですが、現場にはこれが宜しくないと気付いていながら是正に向けて行動しなかった人たちが少なくないと想像します。この状況から懸念されるのは「福島第一原発で仕事をしている一人一人が自らの命を守るのが精一杯で正しい行動をする余力がなくなっているのではないだろうか」ということです。もしそうだとすると、これからもあきれる様な事故が次々と報告されることになりそうで心配です。
2013年 8月 19日
残念ながら福知山市の花火大会の会場での爆発火災事故で死亡された方がお二人になりました。当初の報道とは異なり、プロパンボンベの爆発ではなかった様です。今は発電機を止めずに携帯容器からガソリンを給油しようとしていたことと携帯容器の圧力抜きをしなかったことが事故原因の様に報道されていますが、安全管理システムへの言及は少ないように思います。携帯容器の圧抜きが重要であることを作業者が認識していたのか、いなかったのかが気になります。また、誰でも携帯容器を購入できることに問題はないのでしょうか?
2013年 8月 16日
昨日、京都の福知山市で予定されていた花火大会の会場で屋台のボンベが爆発して多くの方が負傷されました。朝日新聞デジタルの記事によると「屋台で使う発電機に燃料のガソリンを入れようとした際に出火。火が近くのガスボンベに燃え移り、爆発が起きた」ということの様です。これは事故の連鎖の典型的なもので発電機への給油での出火がなければボンベの爆発はなかった訳です。この一つ目の事故を起こさないことが重要であると同時に、火災の可能性のある場所にプロパンガスのボンベが置いてあったという「好ましくない状態の維持」にも着目する必要があると考えます。
2013年 8月 9日
昨日、福島県南会津郡下郷町にある景勝地、「塔のへつり」を訪れました。木橋の両岸には「この木橋は荷重制限がありますので、一度に30人以上が乗らない様にご協力ください」と言う内容のメッセージがありますが、果たして何人の人がそのメッセージを確認して木橋を渡っているのだろうかと気になりました。確かにハッキリと大きな字で書かれていますが、それに注意を払わなければ認知はされないでしょう。改めて、認知させることの難しさを考えさせる一件でした。
2013年 8月 1日
昨日、NHKの「ためしてガッテン」で緑内障の人は視野に欠落があるのに本人はそのことに気付いていないことが多いと聞きました。何んと緑内障の人の90%が自分の病気に気付いていないそうです。視野に欠落があると「そこに在る物が見えていない」という状態になるため、認知のエラーを起こしやすいのですが、「自分はそそっかしい」と思い込んでいる人も少なくないようです。危険な作業や人の命を預かる作業をする方は、自分が緑内障でないことを健康診断などで確認しておくことが大切です。
2013年 7月26日
スペインでの列車事故について色々と情報が出てきました。制限速度80Km/hのところを190Km/hで走行して急カーブを曲がり切れなかったというのはJR西日本福知山線の事故と良く似ています。もし、スペインの鉄道会社が福知山線の事故を真剣に検討して事故防止に努めていたらこの事故はなかったのかもしれないと思います。
その意味で、他者の事故も自らのものとして分析検討して事故防止に努めることはお客様の命を預かる全てのビジネスでは必須だと思います。
皆さんは、どう思われるでしょうか?